short | ナノ
向けた先の彼の横顔がひどく不機嫌であった。
そこまであからさまにされるといっそ清々しい、と思えるほどに機嫌は最悪だった。


「なまえさん……?」
「何」
「……いえ、あの……本逆さまです」
「ああ……うん、ありがとう」


さもどうでも良いと言うようなおざなりな礼を述べられて、やはりなまえさんは上の空。
折角同じ空間を共有しているというのに、この態度はあんまりだ。
そう始めは思っていたのだが。
しかしこれが何十分何時間と継続されると、不愉快を通り越して心配になってくる。

元より物事が長続きしない性分な彼は喜怒哀楽においても同じことが言えた。
だから。今のこの状況は異質なことこの上ない。




「(何かあったのか……?)」




この人に限って何かないわけはないのだけれど。
それが例え目覚めが悪かったなどという些事であったとしても、ここに至るまでの理由が何かしらあるはずだ。
読みかけの本もそっちのけでじっとなまえさんを見つめる。
些細な変化も見逃さないように。

この状況を芳しく思っていないのはきっと同じだろうから。


「若、」
「何でしょう」


ただ眺めているだけだった本をおもむろに傍らに置いたなまえさんは、じっと俺を見返した。
名前を呼ばれたから反問した声にも彼は大した返しをせず、ただ俺の顔を見続けるだけ。
しかし、不意にぎゅっときつく腰を引き寄せられた。




「悪い……暫くこのままでいさせて」
「そ、れは構いませんが……」




煮え切らない態度は変わらない。
けれど、単純に怒っているだけではなさそうだった。
図らずも間に挟まれる形となった読みかけの本を折らないよう落とさないよう細心の注意を払って。
俺が出来るのはこの状況を享受して、彼の好きにさせることだけ。


「……」
「……」
「…………はあ」
「何かあったんですか……?」
「ん?んー……あったっちゃあ、あった」


ぼんやりとした返答は至極曖昧で、何も覚らせない。
ただ“何かがあった“という漠然な事実だけを突き付けて終わってしまった。
こういう状態になってしまったなまえさんから事の核心を得るのは至難の技だ。
自己開示を待つか自己完結を待つかの二つに一つ。

とどのつまり、俺は根気強く待つしか選択肢はないということ。


「……若、」
「はい」
「嫌だったら嫌って言わないと、俺解んねーぞ」
「そうですね」
「何も言わねーと、調子に乗んぞ」
「はあ……どうぞ。俺は一向に構わないんで」


本心だった。
彼の起こす行動で嫌だと思ったことはほぼなかったし、全てを受け止めるつもりでもあった。
そうしたら「あーあ…、」とどこか飽きれ混じりに溜め息ごと項垂れられて。
どうやら今回は自己完結したらしい。




concluded the inside story
-必要なのは結果のみ-



(雰囲気は和らいだ)


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