short | ナノ
声なんか無くなれば良い、彼はいつもそう言って俯いていた。
曰く、声が無ければ話さなくて良い、この拙い話し方を曝さなくて済むとのこと。
別に変な所などない、いくらそう宥め賺してもいつだって下を向いていた。

そんなんだから視野が狭くなって見えるものも見えなくなるんだ。
下ばかり見てないで少しは顔を上げて周りを見たらどうだ。
俯いた世界はさぞ暗く淀んでいることだろう。
思うことは色々ある。

だけれど、その内ただの一つだって伝えたことはない。
何故かと問われれば、それは至極簡単なこと。
――子供染みた独占欲。その一言に尽きた。

俺の世界は彼しかいないのと同じように、彼の世界には俺しかいなければ良い。


「侑士……今日の放課後、暇?」
「ん? おん、部活終わった後でええなら空いとるで」


嘘。本当は岳人達とマック行く予定だった。
でも、そんな些末な予定など彼を前にしたら無いに等しい。
ミーティングならいざ知らず、ただの放課後の雑談だ。
俺が居なくたって何も変わりやしないし、今にも消えてしまいそうななまえをこの手中に収めるためなら造作ないことである。
仲間内の不平など。


「あの、母さんが、夕飯一緒にどうかって……大丈夫?」
「お、また美味い飯食べさせてくれるんか。絶対行くわ」
「侑士…僕に、気遣ってない……? いつも、断らないけど……」
「何言うてんねや、都合合わん時は泣く泣く断っとるやろ」


せやから、そない心配せんでええよ。
出来るだけ優しく、心地良く、心に染み入るように語りかける。
俺はその喋り方は何とも思っていないし、ちゃんと言いたいことは伝わっている、そう思ってもらうために。
そうすれば、なまえはまた話し掛けてくれる。それで漸く俺の心は満たされる。

彼に誰かが取り巻けば、そちらに傾いてしまうのではないか気が気でない。
なまえは俯いているからこそ俺だけを頼り、俺だけに話し掛け、俺の交遊関係で気に病むのだ。


「ねえ、僕の話し方、変……?」
「ん? そんなことないで。俺ら普通に会話出来とるやん。……何や言われたんか?」
「ううん……ただ、皆、微妙な顔して帰るから……やっぱ話さなければ良かった」


少し諦めた風に、それでいて悲し気な声音だった。
恐らく微妙な顔というのは、なまえが目を見て話さないから相手も反応に悩んだだけだろう。
大抵の奴は例え数秒だとしても目を合わせて話す。
なまえのようにほぼ目線を合わせず、たまに窺うように見る人は稀だから、望む反応が出来なかった。
事実などそんなものだ。

でも、絶対に言ってやらない。なまえは俺の世界だから。手放してなるものか。




だから、独り占め
-愛しい愛しい囲い子-



(俺は、なまえと話してて楽しいで)
(また一つ、繋ぐ鎖が増えた)


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -