short | ナノ
あ、とふと気付くことがある。
初めてであるはずなのに、前に見たことがあるように感じること。
所謂デジャヴ。それが日常の端々にあった。
対したことではないのだが、何と無く気持ち悪い。


「……またか、」
「仁王くん? どうかした?」
「いや、今ん光景を見たことあるような気がしての」


初めてなんじゃが、そういって仁王は少々顔を歪ませた。

何気ない放課後。いつもと変わりない帰宅路。
蝉の鳴き声がわんわんと辺りに木霊していて、陽炎が道路の境界線を揺らして、陽が傾いている。
その中で、仁王となまえが鞄を背に担ぎゆっくりと歩いている。
温い風が頬をなぞって、カキ氷の幟をはためかせた。

その絵図が脳裏に一瞬だけ映って、直ぐに見ている光景に変わる。
去年はこんなに蝉は鳴いていない。
一昨年の気温は夕方に陽炎が出るほど暑くない。
その前はまだ互いに知り合いではない。


「ねえ、これは昔に聞いた話なんだけど」
「ん、」
「その人はね、デジャヴは前世の記憶なんじゃないかって」
「……ほう」
「自殺した人に対する一番の罰は同じ人生を繰り返すことで、今ある人生もその繰り返しの何回目かで」


途切れることない蝉の声。こめかみから伝い落ちる汗。
隣に居るなまえの声が少し朧気になる。今日は本当に暑い日だ。


「同じ人生を巡っているから、見たことある景色が存在するんだろうって」
「……面白い見解ナリ」
「ね。僕もそんな考え想像もしなかったよ」
「ちゅうことは、俺は自殺したんか」
「うーん……その人の考えに沿うと、そうなるね」


そうなまえは薄い笑みを浮かべながら、捲り上げた袖口で額の汗を拭った。
小さな口一杯に氷を詰め込む小学生を横目に仁王もその動作を倣う。
どこかの軒先に風鈴でもぶら下がっているのだろうか。
ちりん。ちりん。と小気味良い音が時折鼓膜を震わせた。




「それは嫌じゃのう――――こんな人生1回で十分だ」




小さく吐き出した言葉はうんざりしているようにも聞こえた。
それを振り払うように仁王は爪先を蹴り上げて、こつん、ぶつかった小石が弧を描く。
小石が転がった先は日陰。と言っても、既に日はほぼ落ちかけているから道路の大半は日陰だ。それでも、茹だるような暑さは変わらない。


「だから”罰”なんでしょう」
「まあ、な」
「もしこの先ずっとデジャヴを感じ続けるなら、仁王くんはそれまで生きていた。もし感じなくなったら、」


その時の仁王くんは前世とは違う道を生きている、それは真面目でありながら断言した口調だった。
なまえの眼は仁王ではなく薄紫に染まる街並みをみつめている。


「僕はね仁王くん、」
「ん……?」
「君と出会ってから見なくなったんだ」


相変わらず温い風が二人の間を擦り抜けていく。
けれど、日没を過ぎたことで幾分か下がった気温が不快な汗を拭い去った。
ちりん。二人の帰路には音が一杯あった。




過日の残響
-耳に残る景色-



(今、僕は前とは違う道に在るみたいだ)
(すくってくれて、ありがとう)


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