short | ナノ
午後7時を回った頃。
呼鈴が2回続けざまに鳴る。
それが彼と俺との取り決めだった。


「こ、んばんわ……」


玄関のノブに手をかけて、ドアの向こうには頭一つ半分小さい黒髪の少年が居た。
俯き加減で窺うようにこちらを見上げている。
俺と対峙したまま動こうとしない彼に「入って良いよ」と一笑を向ける。
ついでに半身身体を引けば、怖ず怖ずと一歩踏み出した。


「部活、お疲れ様」
「ッ! ……は、はい……」


労りの言葉を掛けるもどうやら耳を素通りしたようだ。
バタン、と閉まった音に肩が跳ねてそれが怯えた風にも取れる。

事実として、怯臆が見え隠れしていた。
ここに来るのは最早数え切れない程なのに。
彼は未だ慣れた素振りを見せない。


「俺は済ませてあるから、シャワー浴びてくると良い」
「……っす」


小さく頷き脱衣所に向かった足取りは重たい。
そろそろ疲れが溜まってここに来るのが億劫になっても可笑しくないのに。
彼はいつもやって来る。

俺は拒まない。
所詮俺は彼にとって手段。

少なくとも俺はそれ以上にもそれ以下にもなる気は更々ない。
さっきまで晴れていたのに、外は猛雨だった。



***





「あの……今日は、その……っ」
「……泊まっていくかい?」


ふかぶかの服の裾を握り締めながら彼は震えていた。身体も声も。
敢えて気付かぬ振りをして想像するに容易い言葉を口にして、どうやら当たったらしい。
こく。これまた小さい意思表示。
聞けば親には連絡済みとのことだったので、断る理由もない俺は無言で手招きする。

無言は肯定或いは了承。
これもまた俺らの間に交わしたルールだ。


「今日こそ、ちゃんと鼻で息するんだよ」
「っは、い……ッ……、ん」


触れるだけのキスを数回繰り返したところで薄く開いた唇を割りぬるりと舌を侵入させる。
これこそ毎回通る道ながら、いつもこの子は全身を跳ねさせた。
逃げ回る彼の舌を追い掛けるのが最近では楽しくなって来るものだから不思議だ。
舌の根をなぞり上げ、奥に引っ込もうとする舌先を捕らえ引きずり出す。
その動きに一々過敏に反応する様が純朴で面白い。


「ぁ、みょうじさっ……んんっ」
「……ああ……少し長くし過ぎたかな。動けるかい?」
「っふ、ぁ……はぁっ……む、無理っす……ッは、」


とろんとした眼がゆらゆらと俺を映して、上気した頬が妙に扇情的だ。
吐き出した吐息も熱を帯び含みきれなかった唾液が口端から顎にかけて伝っている。
まじまじと眺めていると不意にこの行為に相応しくない色が彼の双眸を過って。


「……今日は隠す?」
「! ぁ、お願いしま……ッ!」


言い終わる前に手近にあった布を手繰り寄せて彼の視界を遮断する。
ひゅ、目下の子の喉が鳴ったかと思えば全身が段々と弛緩していて。




「行くよ」
「はい、っ……ぁッ、……ふ……、ぁぁ……!」




行為は再開される。
最早慣れた風に日に焼けて健康的な肌を弄る自身の手に苦笑。

彼は一度強姦紛いを受けて以来後ろが欲しくなるのだと言った。
薬が原因らしい。
たまたま見かけた俺が偶然にも助ける形となって、強姦は未遂に終わった。表面上は。

かぷり、と硬くなりつつある胸の頂に齧り付けば身体は戦慄き声も艶を帯びる。
難儀な身体になったもんだ。


「ひ、ぁッ……! や、ぁ……ッく……、っあ、ぁあ……っ」


啼くというよりは泣く。

そんな感じだった。
どろどろと先走りを溢す前を撫でながら、もう片方は孔に侵入を果たす。
嗚咽混じりにも聞こえる喘ぎは耳に痛い。
わざわざこんなとこまで男に抱かれに来るなんて、そんな。


「……ぁ、っあ、……も……っイく、イっ……く、あ……」
「好きな時に好きなだけ、イくと良い。大丈夫だから」
「ふぁ、ぁ、みょうじさッ……あ……ああ、はぁ――――ッ!」


後ろで達するだけで済むならまだ事は良かったのかもしれない。
どろ、潤滑油に使った彼の白濁液が指に絡み付いて糸を引く。
荒く呼吸をするこの子の口は空気を求めて何度も開閉を繰り返し、か細い声で俺を求めた。

本意ではない。
でも、彼は知ってしまった。




「……ゆっくり、息を吐いて」
「――――っ、ぁ!! は……ぁ……あ、ンん……ッ!」




快感かはたまた恐怖か。
辛そうに身体を捩る彼の頭を意味はないと知りながら撫でた。
目元を覆う布は湿っている。
可哀想に。




ならば汲んで差し上げましょう
-水を行為を気持ちを心を-



(外は未だ猛雨だ)


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