short | ナノ
今まで傍らに在り続けたからといってこれからもそれが同様に続くなど、淡い妄想だったのだ。
否、甚だ馬鹿げた勘違いだったのだ。
それを15年目にして実感した。

昼休みの雑踏を擦り抜けて、神妙な顔付きのなまえが近寄って来る。


「ちょっと、今良いか?」
「あ? 大丈夫だけど?」
「岳人だから言うんだけど、さ……」
「おお……何だよ、改まって」
「……俺、忍足が好きっぽい」
「――――は、……え?」


度肝を抜かれるとは正にこのことだろう。
ぽかん、と恐らく間抜け面であろう顔面を突き付けて。
頭が真っ白になった。周りの雑音が一瞬にして消え失せた。
それを気持ち悪がったと解釈したのかなまえが慌てた風に言葉を紡ぐ。
次から次へと話される弁解と惚気の嵐。それに、くら、目眩に似た何かを感じた。

違うんだ。別に気持ち悪いわけじゃあ――。

目前の幼馴染みの恋心を気持ち悪いと謗るならば、それは今まで自身が圧し殺してきた感情をも謗ることになる。
それは頭を殴られる以上に痛い。
何か言わないと。いつまでも無言では、こいつが不審がる。

渇いた喉。動け。動け、声を今直ぐに。


「い、つから……?」
「え……と、意識し出したのは……2年の頭だな」
「何にや?」
「「!!」」


ぬっと現れた当の本人は疑問符を携えていて、なまえが肩を揺らしたのに気付いていないようだ。
間が悪いとも助かったとも思う。
このまま会話を続けていたら、何を口走るか分からないから。
安堵に侑士を見上げて今度は俺が肩を揺らす番だった。


「せや、みょうじ。この前言うてた本な、駅前の本屋に売ってたで」
「マジで?! いやーどこ行っても売り切れててよ、教えてくれてありがとな」
「っ別に構へんよ。俺も偶然見付けただけやし」
「(――――…ああ、こいつも)」


どこか落胆する思いだ。

三方の交錯する胸の内に気付いていなかったのは三者同等だったようで。
そして、今の心事情を把握しているのは俺だけであった。
見るからに幼馴染みとパートナーは両想い、でも俺は昔からなまえのことが。
急転直下の状況変化に脳内が付いていかない。

侑士となまえは、出会ってまだ3年目でしかないのに。
俺となまえは、ずっと。

おいてけぼりを食らって感じたのは怒りでも哀しみでもなく――虚しさだった。
二人の話し合う表情は傍から見れば熱く火照っていて仄甘く、そこに俺の入る隙間など微塵もなかったのだ。
だから、俺は今まで通りこの感情に蓋をして心の中でこう吐き捨てる。




いい加減くっつけ
-したら諦めるから-



(横恋慕なんて真似、したくない)
(だって二人とも俺の大事な、トモダチなんだ)


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