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頼られるのは嫌いじゃあない。
頼られることでしか自身の存在を肯定出来ないから。
勿論、頼られることと押し付けられることとが紙一重であることは重々承知の上だ。
それを理解した上で、頼られることを望んだ。

なんとも馬鹿げた話である。


「ほんま、阿呆やな」
「……うっせ」
「自分で首締めてどないすんねん」
「はいはい、どうせ俺は後先考えない大馬鹿野郎ですよーだ」
「めんどくさい拗ね方止めぇや」


伊達眼鏡の奥に在る双眸が呆れを語っている。
言われずとも、奴に言われたことは自分の中で既に燻ぶっていた。
されど、理解していることを他人から指摘される程腹立たしいことはないだろう。

解っているから、と。それ以上傷口に触れないで欲しい、と。

言えたらどんなに楽か。そう思うも実現されたことは一度だってない。
臆病者は所詮心の中でしか大口を叩けないのだ。


「で、何か用?」
「ん? いや?」
「……冷やかしはお引き取り下さーい。っしっし」
「冷たいわあ、ケチケチせんと見とるぐらいええやろ」
「気が散るんだよ」


作業を再開させるも、仕分けるべき文字の羅列が頭の中を通過していく。
手元が覚束無い。作業ペースが格段に落ちた。
じっと向けられる忍足の視線が恐怖でしかなく、手が震える。

頼られるのは嫌いじゃあない。
頼られることでしか自身の存在を肯定出来ないから。
しかしながら、作業の工程を見られるのは一番嫌いだった。
要領の悪い自分を露呈するから。

自分はこれだけのことが出来るのだと示したい傍らで、これだけのことをするのに物凄い時間を要する。
何事においてもちゃっちゃと済ましてしまう人が羨ましい。




「……しゃあない奴っちゃなあ」
「! い、いいって……!」
「そないなペースやったら学校終わってまうで」
「――――、っ……!」




かっ、と一瞬にして顔全体が熱くなる。
作業が遅い、そう暗に――否、如実に言われた。
吐き出された溜め息が怖い。
そうこうしていると横から見ていた確認票を掻っ攫われ、ますます泣き出したい衝動に駆られる。

勿論それは心的表現であって、実際には涙の欠片も浮かばないのだが。


「……本当、忍足って要領いいな」
「そおか? 自分じゃよお判らんけど」
「…………ムカつく」
「は? いやいや、いきなり何やの」


仕分ける手は止めずに、一般的に笑顔と呼ばれるものを俺に向けた。
正直、俺は笑えない。
そんな意図はないと解っていても、奴の言動の何から何までひけらかしに感じてしまうのだ。
それが単なる被害妄想だということは十も百も承知している。

だからこそ、俺は一人でこなそうとしているのに。
忍足はそれをさせてくれない。


「余計なお世話だっつの」
「あーはいはい、ええから手ぇ動かし」
「……ムカつく」


これが単純な厚意だと解ってはいるけれど。
それを有り難く受け取れない俺は、へそ曲がりの大馬鹿者。




歪曲見解
-臆病者の防衛法-



(頼られることを望んでいるけれど)
(いざ頼られるとそれを素直に”頼られている”とは受け取れない)


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