short | ナノ


「なあ、」
「んー? どしたー?」
「俺が死んだら泣くか?」


唐突に思い付いた言葉を飾り気もなく口にした。
無意識だった。只漠然と脳内に胸中に浮かんだのだ。
他意はない、はず。

判らない。自分の事であるはずなのにからきし判らなかった。

何故そう思ったのかも、それに対してどう返事して欲しいのかも。
全く先が見えぬ状態で言を発する等、らしくない、と思う。
ああほら目の前のみょうじが訝しんでいる、と自ら聞いておきながら聞かなければ良かった。
そう財前は苦虫を噛み潰した。


「何だよ、行き成り」
「や、すまん……今んは聞かんかったことに「泣くぜ? 多分」
「…………は?」


泣きながら暴言吐くわー。
酷く軽い乗りで紡がれた台詞が上手く消化されなくて気持ち悪い。
それほどまでに彼、みょうじの発言は予想外でいて意外なものだった。
考えなしの問い掛けだったけれど、するであろう返答をそれなりに財前は推察していたのだ。

それが自身の望むものかどうかはまた別問題であったが。

とにもかくにも、このみょうじという男が自分が死んだら泣くなど信じられない事柄だった。
少なくとも財前には。


「嘘、やん……キャラ違っ」
「嘘吐いてどーすんだよ、つか死んだだの殺されただのの土壇場にキャラとか関係ねーし」
「……誰も殺されたなんて言うてへんわ」
「同じだろ。何でどうやって死のうが殺されたも同然なんだし」


横目に見たみょうじはその姿形に別段変わりはなかった。
いつものように棚を整理しいつものようにつまらなさそうな顔をして。
慈しむように本を撫でる。
羨ましい、そう瞬間的に思ってしまって俺こそキャラちゃうやん、と一人自己嫌悪。

報われぬ感情は埋めるに限る。物欲然り主義主張然り。
そうやって今までの少なくも短い人生を送って来たのだ。

それに憤りを感じることも多々あるけれど。
それが子供染みた単なる我儘の延長線上だと、十分に理解していた。
やはり理解と行動は別物だ、と言い訳をするしか出来ないあたりまだ達観視出来ていないのだろう。


「泣いて欲しくないのか?」
「……」
「んじゃ、泣いて欲しいのか?」
「…………、判らん」
「……ま、お前がどう思おうと俺は泣くがな。案外涙脆いんだぜ、俺」
「……やっぱキャラちゃう」


淡白に向けられるどの言葉もピンとはこなかった。
曖昧で不明瞭で底が無くて暗く薄汚く淀んでいて。
そんなこの手では到底掴めそうにない。

白とも黒ともつかないこの感覚が不愉快で気持ち悪く、腹の辺りがぐるぐると渦巻く。
吐き出そうにも容がないのだから仕様もなく。
ただ奥歯を噛み締めるだけ。




「なあ、」
「……なん」
「死ぬとき傍に居てやろーか?」
「………はあ?」
「何もしないけど、って、あー……そういうのって自殺補助になんだっけ」




捕まるのは嫌だなー、随分と能天気な口調だ。
聞きようによってはふざけてるのかと間違う位に。
なのに一切変化のしない横顔がみょうじの事の真面目さを裏付ける。




問題未解決
-1mmも進展していない-



(ならば、その涙に溺れ沈んでしまいたい)


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