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小ネタ

通された室間は仄暗い。
南蛮由来の小洒落た矯正具をかけた青年は俺をここに連れた後直ぐに、身を引いた。
覚らせない笑みと口調。
流石なものだと内心で嘆息し拍手を向ける。
間の片隅に置かれた行灯の囲いは所々破れていて、時折朱とも橙ともつかぬ灯火が面妖に揺らいだ。

どうやら隙間風が在るらしい。
確か、あの日もこんな隙間風が吹き抜ける日だったはず。




――――…行かんで、淋しか…ッ!




縋る二つの眼が水分を含み、不意に柔らかな頬を滑り落ちる。
幼いながらにどこか官能的で、どこか不釣り合いだった。
文が届いたのはその一年後。
俺がそれを手元に置いたのはその更に三年の月日が経った後であった。


千里が働いているのは茶屋だ。
普通の茶屋ではない。
陰間茶屋と俗に呼ばれる店。

奴が俺に宛てた最後の文は文と言うには実に簡素で味気なかった。
だがそれが余計に彼らしいとも感じさせる。

言葉足らずで突飛。まるで浮き雲を相手にしているような感覚。嫌いではない。
そうだ。奴は存外向いているのかもしれない。


ふ、と押し殺した気配が動いた。
下階は賑やかな喧騒に包まれている。成程。手馴れた消し方だ。
一人は天井。もう一人は廊下。
取り敢えず多少なりとも殺意ありきの気配はそれだけ。随分、見くびられたものだと息を吐く。
静かに目蓋を下ろせば広がる闇の世界。馴れた世界。俺の縄張り。

夜目は利く方だ。
利かねば有るのは薄ら寒い死のみ。
それが俺の生業。

全身の感覚を研ぎ澄まし、人の気を読み察する。然程苦ではない。最早日常茶飯事。
廊下の影が動いた。廊下と室間とを隔てる障子の隙間をぬって放たれた先制攻撃。
細い針。さして殺傷力は高くない。大方神経毒か何かの類いが塗ってあるのだろう。
辰巳の方角。狙った先は俺の首筋。的確だ。実に無駄がない。

けれど俺には効かない。
こんな探り探りで殺意の低い攻撃を食ろうてやる程お優しくも生温くもないのだ。

一撃目を難なく躱して懐に手を忍ばせれば、間髪開けず放たれる追撃。
懐から指と指に挟んだのは相手が用いたのと同様の細い針二本。
一本は迎撃用でもう一本は威嚇用である。
同等の針で寸分違わず撃ち落とすと、僅かに空気に緊張感が増した。

威嚇用は障子を突き破り廊下の支柱にでも刺さったはず。
いけない。常の行いで猛毒が尖端に塗布してある物を使用してしまった。
畳に刺さった部分が一寸の円形に落ち窪んでいる。つまり溶解したのだ。

音もなく天井板が外され気配が落ちてくる、というより向かってくる。
さあ、彼の者が手にしているのはクナイか脇差しか。はたまた俺の知り得ない未知の代物か。
どちらにせよ。この様な直線的な気を組伏せるのは容易い。


「――――…っ、!?」
「惜しかねえ」


振り下ろされた刃を躱したことで一瞬身体の均衡が崩れたのを好機に片手で細い二の腕を捻り上げる。
少しでも気を抜けば振り切られそうな腕っぷしには舌を巻くが、まだ青い。
要領よく体重をかけてやれば、至極容易に押さえることは可能。

勢いよく畳に押し付けた際に風圧でも受けたのか、隅の灯は弱々しく没した。
月明かりのみが間を照らす中、少年の髪が光源に赤黒く反射している。
まだあどけなさが残る顔を見下ろし、懐から先と同様の針を抜いた。


「…金太郎、ッ!」


焦った声音。
振り上げた俺の腕目掛けて障子から人が飛び掛かってきた。
息の根を止める物を突き付けられている者よりもひどく、その少年は焦燥に駆られている。
思わず眉間が曇った。
この世俗において少年は禁忌を侵したのだ。

焦燥と動転のあまり、目下の少年の名を口走ったこと。
そして、己自身を敵の攻撃範囲内に晒したこと。

どちらもその身を危うくさせる要因にしかなり得ない。


「…しょんなかね。返しちゃるば、い!」
「「?!――…ッ、!!」」


少年の登場に気が緩んだ赤髪の少年は存外軽く、投げた方向へ真っ直ぐ飛んだ。
けたたましい音を立てて二人仲良く障子を突き破り廊下へと倒れ込む。
されど、素早く体勢を立て直しこちらを睥睨。
その反応の素早さだけは見事なもので、行動の愚直さとの矛盾が面白可笑しい。

目付きを鋭くさせたまま微動だにしない二人の姿をじっと見つめた後、未だ手の内にあった針を懐に戻し再び畳に腰を据えた。
俺のそのような行動が余程奇怪に見えたのだろう。
更に顕になる警戒心と尖る殺気。




「今んあんさんらに勝ち目はなかばい。諦めなっせ」
「っじ、ぶん何者や…!」
「…千里の昔馴染みたい」




呟き言が如く小さく発した声にずくりと隠れた左目が疼く。
昔馴染み、この言葉に嘘偽りはない。
けれどこの表現はあまりにも俺の身勝手な言い分に思えた。



***
熊本弁…難しっ!しかも、白石出てこないorz
古風な単語知らないェ…。
多分次に話が進めば千歳とか白石とか謙也とか出てくるはず…!

つか小説書いている場合ではないのだが…あれ可笑しいな(;´◎ω◎)


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2012/01/16 03:58

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