ポッキーの日SS

 激痛。首を無理矢理曲げられた。
 衝撃。口内を抉る甘い香りに頭が停止する。

 勢い余って折れてしまった正体不明の物体が、ころころと踊っている。舌で確かめてみて、ああこれはチョコレートだ、と気づいた。後悔した。甘いものは大嫌いなのだ。
 目の前でボクの反応を窺っているアメリアは、時折子供のそれとは思えない眼光を叩きつけてくる。怖いからやめてぇなぁ。
 ふと、今日の日付を思い出す。同時に閃きが舞い降りた。許されるのなら手と手を合わせてみたかったけれど、こんな地味にシリアスな状況じゃできやしない。
 つまり。これは。――飲みこんで。

「パッキーの日だからって、背後から襲いかかるとはアメリアもオトナになったなぁ」
「たまには世間のイベント事に付き合うのもいいかと思ってね。お味はどう? 騎士団長サマ」

 喉に流れこむ甘ったるいコーティングと、同じぐらいの甘味を誇る――しょっぱいんだろうけど、ボクにはどうも同じに見える――クッキー部分。
 はっきりいって、美味いのだろうが不味すぎる。だから甘いものは嫌いっていうてるやん。
 でも。

「美味しいんやねぇ、コレ。思い直したわあ」
「……美味しいの?」
「正直いって仲直りはできひんけど、アメリアがくれたもんやもん。とっても美味しいよ」

 嫌いなものを食べさせられても、大事な仲間と会話できるなら本望だ。

「なにいってんの。それじゃ自分で食べたら嫌いなままってことじゃない。無理しておべっか使わないで」

 そういうことじゃ――あるけれど、ないのに!
 なぜだか珍しく謝ってきたアメリアに笑顔を向ける。そんな終わりは望んじゃいないのだ。


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