ガブリエーレ裏切りシーン

「イーリアスくん」

 後ろから声がした。ガブリエーレさんの声だ。いつもどおりの高らかな声は、僕と同じように音に歓喜を滲ませている。
 よかったなとかいって、肩を抱こうとしたりするんだろうな。そう思って振り返ろうと足を捻った瞬間だった。

「ごめんな」

 上擦った声が一気に低音に変わったことが理解できなかった。
 形容し難い焦りが生じる。全て諦めた声だ、と思って、この状況は喜ばしいことだろうにと不可解になった。レナトゥスさんを呼び出して、スイレンちゃんの不治の病を治して――そこに諦める要素なんて一つもないのに。
 ガブリエーレさんにはあるのかな。だとすれば、それはなんで?

 ――ぱあん。

「え」

 振り向き終えた僕の顔が驚愕に歪む。
 銃声。ガブリエーレさんの武器だ。武器を使うってことは敵が潜んでいたってこと。敵の悲鳴と血が視界に映りこむ。そのからだも。だけどそんなのおかしいのだ。
 セニちゃんの体が重力に従って倒れていく。僕の目がおかしくなっていなければ、セニちゃんが敵ってこと。でもセニちゃんが敵だなんて考えられない。でもきっと、僕らを阻む存在はいたんだろう。
 それは、誰、なのかって――

 ガブリエーレさんを見た。赤い髪が風に揺れていた。赤い瞳の真ん中は白く、精霊なんだってすぐにわかった。
 ガブリエーレさんの髪は亜麻色で、人間なのに。

「セニちゃん!!」

 セニちゃんに近寄り、体を抱く。お腹からどくどくと血が溢れ続けていた。見るに堪えなくて目を固くつむる。細い息遣いが鮮明に聞こえてきて、頭が爆発しそうだ。

「ガブリエーレさん、それ、」
「――これ? 火を得意とする精霊の証。オレ様精霊サマだったのよ」
「なんで」
「なんでって、そりゃあ、スパイだからに決まってるだろ?」

 片手銃をぶらつかせながら答えられる。……スパイ? 彼が本当に?

「あ、信じられない? 残念だけどマジなんだよな〜。オレ様、ただの傭兵じゃねーの。教団員だったわけよ。ルキウスだけじゃなくてハインツにも熱いお手紙送って……両立、大変だったんだぜ? イーリアスくんはオレ様を信用してくれたみたいだけど、オレ様の方はぜーんぜん信用しちゃいませんでした、ってな!」

 呆然と彼を見上げている間、ガブリエーレさんは口早に語りだす。
 語り終わって数秒後、ふ、と顔に陰を落とした。

「だから、そんな目しないでくれよ。オレだってこんなこと、」


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