サチアメ対峙シーン

 雑魚ばっかだ。教団の総本山の内部にいるっていうのに、どいつもこいつも雑魚ばかり。
 突然現れた不法侵入者――アメリアたちを追いかけ、時には追いつき武器を抜く僧兵たちを蹴散らしながら、忙しなく視線を動かす。見慣れた橙色がいつまでたっても見つからないことに苛立ち始めていた。……いや、苛立ちそのものは既に心臓に嫌というほど刻みつけていたけれど、今覚えているそれは別の種類のものだった。
 端麗な怒号に顔を向けないまま跳び蹴って、ヨーヨーで殴りつけたりして中を進んでいくと、やがて広いホールに出た。ばっと現れた人影に口の端がするりと吊り上がる。
 橙色のポニーテール。剣を構えたその顔は、とってもムカつく満面の笑み!
 ――こいつ! いけしゃあしゃあと!

「ここで会ったが百年目、ってやつ? 久しぶりやね――」
「殺す!! おとなしく食らいなさいッッ!!」

 ヨーヨーを振る。驚きもせず、片手に光る剣を一振りしたサチは、ひらひらと手を振った。
 ヨーヨーと剣がぶつかる甲高い音を聞き、眉間に皺が寄っただろうアメリアを見たその顔が呆れた微笑みに変わる。

「殺す、だなんて。いってほしくなかったなあ」
「アメリア、ずっといってたでしょ。嘘吐きは大嫌いだって。――最初から信じなければよかったんだわ」
「えっ、信じてくれたん、ボクのこと。わあー、嬉しいなあ!」
「そうよ、信じていたのよ。裏切り者だなんて、自称してほしくなかった……!」

 何回ヨーヨーを操ってもサチは相打ちにするばかりで、攻撃も逃げることもしてこない。今更和解を望んでいるつもりかと問えば、さあどうやろねえなんて煮え切らない返事が飛ぶ。
 またそんな言動をして、ちっともアメリアのいったことを理解していないその態度が、限界突破していた怒りを加速させた。

※※※

 ああ、こいつ、苦手な人間だ。
 直感が働いた。相容れない性格をしていると顔を顰めた。軽薄で浅はかで能天気な男――それが、サチの第一印象だった。
 はじめの出会いは最悪でも、いずれ仲良くなってゴールインするものだよねとかイーリアスが宣っていたけれど、どうだろうか。旅をし続けてきた今、昔のアメリアに思いを馳せる。――それはそれはもう、彼を毛嫌い……いや、そんなにしていないかもしれない。けれど嫌っていたのは事実だ。
 今では、多少は仲間として認めてもいいのかもしれない。一教団員ってだけだろうに、実力を持つ謎の男。思い浮かべた立ち位置は変わっていないけれど。

 ――認めてもいいと思っていたのに。
 ――ああ、このまま、愚直なまでに彼を信じていたって構わなかったのだ。

 赤フードが揺れる。ハの字眉毛が軽やかに言葉を口内から滑りだす。もう話すことは話した。裏を返せば、最初から裏切ってなんかいなかった。……騙されていた!
 最後まで仲間でいようとしてくれたのには感謝する。激昂していたことをあとで謝らなければならない。けれどそれはそれとして、騙したことに憤慨していたのも事実だから、思いきり殴ってやりたい。
 変わらない、憎たらしい、燦々としているこの笑顔を!

「絶対、ゆるさない。一発ぶん殴らせてもらうわよ」
「えっ、マジで? それはややなあ」
「天誅!」


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