偽り偽り、またいつか。

「動物愛護大賛成――鎌鼬を愛でて愛でて愛でまくり――」

 ゆるりとアメリアたちの方に向けられた指。魔術の臭いが鼻を掠めると共に、サチの周辺に風の刃の切っ先が形成された。
 気でも触れたのか知らないけれど、彼はアメリアたちを攻撃しようとしている。気づかれないようにしていたようだけど、アメリアにはお見通し。

「魔術!! 避けてッ!!」

 だから叫んだ。不敵な笑みに拳を作りながら。
 ガブリエーレの困惑した声に遅れて、ひゅんひゅんと何枚かの風刃(ウィンドブレイド)が飛んできた。間髪入れず唱えられた言葉を脳内で探る。これも風の魔術だ。低級? 上級? もしかして創作――?
 どうかしたのかと問おうとした刹那、ぎゃあ、と能天気で真剣な悲鳴が響く。イーリアスだ。笑ったままのサチがイーリアスを抱き寄せている。イーリアスは口を開閉させながら、サチさんどうしたのなんて涙目になっていた。

「ま、魔物? 魔物がいたの? 僕こんな手荒なやりかた嫌いだよぅ……」
「魔物なんかいやせんよ」
「いないの? それじゃあどうして、」

 ――ぶわ。

「て……、えっ?」

 それは。
 イーリアスの質問を遮って、アメリアたちの視界に現れたのは、聖輪の盾(ナオスフラム)の団員であることを表す赤フード。
 フードを被っているのはイーリアスじゃない。後ろにいる仲間たちでもない。
 笑って、いるのは。

「なにかのコスプレかねぇ、ソレ。やっすい紛い物だったら嬉しいんだけど」
「いいや? ちゃんとした正規品。とーっても高品質にできてるやろ」

 ガブリエーレの発言を飄々と受け流して、変わらない笑みを浮かべて、イーリアスを攫おうとしているのは――!

「サチさん、なん、なんで……!?」

 やっぱり事実は変わらない。
 サチがアメリアを裏切るんだ。裏切るつもりなんだ。
 ――めちゃくちゃムカつく!!

「だ、だって、僕らの敵じゃないって――教団の下っ端みたいなものだって――」
「ああそれ全部嘘。サチというのも偽名やよ。ボクの本名は、」

 遠くから聞こえてくる赤の他人の声。姿すらも赤い――赤フード、つまり、聖輪の盾の団員だ。そいつはサチを見つけると、小隊準備できましたと声を張る。
 ファミーリエ隊長と、そいつは言った。にこやかに手を振るサチに向かって。
 ファミーリエという姓を持つ人間を、アメリアはひとりしか知らない。レイヴン・ファミーリエ。こいつらの団長で、海の星の一人に数えられる正体不明、神出鬼没の強者。
 それがサチだっていうの。そう考えると、尚更怒りが湧いてきた。

「……聞いた? へへ、かっこええ名前やろ〜」
「そ、んな――本当なの!? 中盤から終盤に登場する裏切り者枠みたいな感じで騙そうとしてたの!?」
「そやよ。びっくりした? ごめんなぁ。でもイーリアスはボクらにとって必要で、邪魔者やから」
「ずっと、ずっと、本心で接していなかったっていうの」

 これまでずっと笑い続けていたサチが、そっと口を閉じ、イーリアスに向けて眉を下げる。二度目の謝罪のあと、再び魔術の臭いがしたことに肌という肌が騒めきだした。

「それは違う。だから――ボクも、苦しいよ」


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