小春+京 お布団のがさがさした感覚、二つの耳を通り抜けていくバイクの音、真っ暗な景色のどこを見ていいのかわからないわたしの目――眠れない。京さんに怒られちゃうかも。 京さんの携帯をちらっと見たときは"22時"だったけど、今はどうだろう。"よるがふけていく"ってヤツになっているのかもしれない。脳におやすみしようねって何度いっても意識が飛ばない。ぼうっとしてきもちわるい……。 (……。こっそりジュース、飲んじゃおうかな) 眠れないことより怒られそうだけど、ときには"わるいこ"になるのも必要だと信じてベッドから出る。ひと、ひと、テーブルや角にぶつからないように気をつけながら歩いていく。目当てはストレート果汁のオレンジジュースだ。 一階に下りて冷蔵庫があるリビングに到着しそうといったところで、そこが眩しいことに気がついた。京さんは寝ているから電気がついているのはおかしいのに。もしかしてどろぼう? ……京さんが起きていたり? そろっと頭を扉の前へ。鞄を肩にかけた京さんが見えて、体ごとリビングに連れた。わたしに気づいた京さんが驚いたあとにくしゃくしゃと微笑む。 「見つかっちゃった」 「……どこにいくの?」 「外。眠れないからお散歩しようかなって」 「おさんぽ……」 「うん。コンビニでなにか買おうかなって思ったんだけど」 おさんぽ。夜なのにおさんぽ。おとなっぽい。いいなあ……。 「小春ちゃんもいく?」 わたしの気持ちが態度に表れていたのか、遠慮がちに質問してきた京さん。一緒にいくとすぐに答えようとして思いとどまる。深夜にお外を歩いたら"ホドウ"されるってテレビで見たから。 だけど今のわたしは"わるいこ"だ。思いとどまったのも数秒ほど。 「うんっ」 「じゃあ、深夜の冒険だ。危ないから手を繋いでようね」 ※ 蛍みたいにところどころにある光を追いかけながら、京さんと歩いていく。この時間に車を走らせている人はどんな人なんだろうとか、今聞こえている鳴き声はどんな虫さんが出しているんだろうとか考えて。 経験したことがないものばかりで新鮮だ。京さんも同じだろうか。それとも大人なんだし、もうたくさん知っているのかな。そう思って顔を上げた。 「京さん」 瞬間、声を出していた。 「なあに?」 無理をしている顔をしていた。ハの文字と同じ眉毛とぎこちない笑顔。京さんが寂しそうにしているときの笑顔だった。 わたしだけ楽しいなんて、そんなの嫌だ。胸がもやもやずきずきする。 「たのしい?」 もやもやずきずきが大きくなっていく。 「楽しいよ」 (……ほんとうに?) それはどんどん大きくなっていくばっかりで消えてくれない。楽しいけど楽しくない。 コンビニに着いて京さんにお菓子買おうかと顔を合わせられても、すぐにはどのお菓子を買おうなんて考えにたどりつけなかった。 [前][目次][次][小説TOP][TOP] [しおりを挟む][感想フォーム][いいね!] |