小春+京 ■こんなお話いかがですか様より、"「髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。"というお題をお借りしました。 髪を切ったから、もしかしたら気づかないかもしれない。髪を切るなんて結構珍しいことだから、京さんもそれに気をとられたままかもしれない。けれどどうか言葉にしてくれたら、こんなに嬉しいことはない。 今日、私はペンダントを身につけている。デパートで買ってもらった、お菓子と一緒のものだ。真ん中に大きな宝石がついたかたいリボンが、私に合わせて揺れている。 (でも、こんな派手でも、同年代の子ならふつうにほしがるよね……) だからなにもいわれないかもしれない。でも、一言でもいいから褒めてほしい。わがままだ。 美容室のおねえさんは、ペンダントを身につけてなくてもきれいだったな。わたしも大人になったらあんな風になれるのかな? さっぱりした髪の先をなでながら考える。どうにもイメージが湧かない。浮かんでくるのはタイプ別のおねえさんばかり。 「小春ちゃん」 「ひゃっ」 びっくりした。慌てて隣を向くと、不思議そうな京さんの顔。 なんでもないといった私に微笑んで、京さんは続けた。 「疲れてないなら、他の場所、いける?」 「ほかの? だいじょうぶ。でも……」 どこだろう? はてなマークを浮かべながら歩いていく。他の場所にいくっていうけど、帰り道をなぞるだけだ。おにくやさん、八百屋さん、お糸と針が売ってるお店……。 辿り着いたのはいつものスーパー。その、お菓子売り場。 「お菓子買っていいの!?」 「あ、ううん、うーん、じゃあもうひとつ買おうか」 「もうひとつ?」 わたしじゃなくて、京さんがお菓子を食べたかったのかな。そう思っていたわたしは驚いた。 京さんが手にとったのは、アクセサリーつきのお菓子だったからだ。 「ペンダントつけてるから……好きなのかなって思って」 同じものが出たらどうしようね、と苦々しく笑う京さんを見て、ぶわ、とほっぺたに熱がこもる。 ペンダントのこと、ちゃんと見てくれていた。きちんと言葉にしてくれた。 嬉しくてしかたがなくて、それでもいいと大きな声を出す。少し経ってから、ここはいろんな人が訪れる場所だと気づき、ごめんなさいと背を縮こませた。 シールをはられたお菓子と一緒に店を出たあと、京さんに開けてもいいかとせがむ。 「なにがでるかな」 「かわいいのだといいね」 「うんっ。……!」 ご飯をたべて、お風呂に入って、おやすみなさいして、それから。 「えへへ」 枕元に置いたアクセサリーを見て、ふにゃりと顔がとろける。 嬉しいおもいで。夢じゃなかった。切った髪もかぶらなかったアクセサリーもここにある。 銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。 [前][目次][次][小説TOP][TOP] [しおりを挟む][感想フォーム][いいね!] |