小春+七海音

「ねえ、知ってる? 二階西の十三階段の話――」

 ひそひそ話をするように、手を添え顔を近づけてきた七海音ちゃん。
 知らない人はいない、学校の七不思議のひとつ。小春ちゃんも聞いたことあるよね? そう言って指をひとつふたつ折る彼女を横目に思案した。
 二宮金次郎の像が動くとか、トイレの花子さんのそれだ。七海音ちゃんみたいにオカルト好きではないから――まあ、怪異が見えたりはするけど、それは"好き"とは別の話――試したことはないけれど、聞いたことはある。十三階段ってなんの話だっけ……。

「ああ、階段の数が不自然になるアレ?」
「そうっ。今七不思議を聞いて、やってみる子っているのかなって、津辻先輩と話してたの」

 昨日、小春ちゃん、同好会にこなかったよね。御影くんもだけど。どうして? という問いははぐからしておく。七海音ちゃんに怪異を近づけたら、いろんな意味でどうなるかわからないからだ。
 あのね、あのねと手を組んでうっとり目を細める七海音ちゃん。津辻先輩に片思い中の彼女のことだ、きっと二人きりになれて嬉しかったに違いない。っていうか目の前に証拠があるし。

「それでね、先輩がね、やってみることにしたんだって」
「……十三階段のウワサを?」
「そう! 本当だったら面白いねって――微笑む先輩も素敵だったなあ……!」

 うっそぉ、これ、どうしよう。七海音ちゃんとは反対に、私の表情はどんより曇り空状態だ。

「それ、成功したらどうなるの?」
「え? えっと、確か……異界からエレベーターが出現して放りこまれるとか、向こう側の世界に神隠しに遭っちゃうとか――あれ? ちゃんと聞いたはずなのに思い出せない――」

 うそぉ。

(ううん、待って。見られてるかもしれない。スマホは――)

 繋がるなら桜汰くんに連絡してどうにかしてもらおうと思ったけど、嫌な予感って当たるもの。案の定ノイズがはしるだけになっていたそれを握りしめ、桜汰くんがいそうなところ――教室にいてほしいけれど――へ向かって駆けだした。

「小春ちゃん!?」
「ごめん七海音ちゃん、用事思い出した!」

 もう一回待って。七海音ちゃんをひとりきりにさせるつもり? ここにはもう怪異がいて、私たちを見はっている。いつ襲われるかわからないのに!
 鞄からメモ帳を取りだして一枚ちぎり、星を描く。アニメとかでよく見る五芒星ってやつだ。簡易的だけど仮にも霊術だから、きっと七海音ちゃんを守ってくれるはず。期待と怨念――七海音ちゃんを守ってくれなきゃ呪ってやる――をこめて後ろに放り、見事七海音ちゃんがキャッチした。

「こういうの好きだよね! 簡単でごめんだけどプレゼントー!」
「あ、うん、ありがとう! じゃあね……!?」


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