京×紺

 ただひたすらにこちらを見つめている様子は忠犬さながらだ。
 気を紛らわすために適当に入れた緑茶に逃げ、茶柱があるから幸運だななんて考え事をして、それでも目の前で微笑むばかりの少女が頭の中から離れてくれなかった。
 ――齢十八、けれども俺よりも年上だと豪語する、ある日突然小春の友達になったと名乗ってきた子。

「あの、さァ」
「なんですか?」
「アー……おやつでもどう? クッキーとか……」

 前に作ったのが残っていたはずだと戸棚へ向かおうとして、後ろに引っぱられる感覚と人間の微熱を一身に受けた。にこにことお得意の表情はそのまま、大丈夫ですと一言返される。

「それよりも、逃げないで。ここにいてください」
「いや、なんで?」
「貴方のことを観察していたいんです」

 語尾にハートか音符でもつきそうな上機嫌な声。

「人間観察が趣味なのかね」
「貴方のことを観察するのが趣味なんです」
「いや……なんで?」
「どうしてだと思います? ふふ、クイズにしましょうか。もんだーい!」

 はい、と両手を開かれる。
 返答に窮した。どうしても、彼女のペースに乗せられる気しかしない。

「えっ……と……俺のことが好きだから、なぁんて……」

 烏滸がましい感百パーセント、上擦りもいいところの声をひねりだした。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返したあと、ふ、と頬を緩まれ、顔に理解したくない熱が集まっていく。

「正解です」
「う……、え? はあっ?」
「あ、もうこんな時間! そろそろおいとましますね。今度はクッキー食べたいです」

 それじゃ、と足早に退散していった少女の残り香を見つめ、今度は俺が瞬きを繰り返した。


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