「めんどくせェ」

 あーめんどくせェ、めんどくせェ。まったく全てがめんどくせェ。めんどくせェ。めんどくせェ。こころを満足するまで読んでいたい。俺国語教師なんて嫌だあ。図書館にでも勤務すればよかった。

「そんなわけで、今日もこころを読みます。俺は読みます。お前らは適当に寝て駄弁っていてください。邪魔しないでください。――はじ」
「真面目に授業してください」
「――う゛っ」

 教室に入ってきたやいなや、某田舎への文句を垂れる曲(語弊あり)の替え歌を豪快に歌い、いつものようにクラスメイト(糸魚川寧々)に右ストをぶちかまれる担任教師を純粋なる生徒諸君はどう思うだろうか。少なくとも警戒心は抱かないだろう。多分。知らね。誰か調べて。
 欠伸しつつ、それじゃあ教科書開け、とわざと間延びした口調で命令する。そうするのはなぜか。面倒臭いので協力してくださいと暗にお願いしているからだ。だって早く終わらせて帰りたいじゃん。定時に帰りたいじゃん。今日はプリントどっさり残ってやがるから残業だよ畜生。あのへっらへら笑った新任、先輩にプリント押しつけやがって。見ろよ、俺も適当に面倒事運んでやるからな。……違う、そうじゃない。

「……で、どこだっけ」
「二ページ」
「そうそこ。"現代文を学ぶにあたって"――ってちげェ!! 御影! 法螺吹くんじゃねェぞ永眠させてやる!!」

 もちろんなんらかの手段で眠らせて、学年担当様にチクって説教に向かえさせるためである。

「二百八十四!! 二百八十四ページですセンセー!!」
「おうおう、そうだったそうだった。ったく、音読面倒だなァ……」
「京……じゃなかった、先生が読むんですか?」
「なにいってんだこは……じゃねーや三留。読まねェよ。やだよ。んでもって丸読みするのも面倒だろ? CDカセット借りられねぇかな…………あ」

 いいこと思いついた――

「映画観ようぜ! 国語ならジゼリ観れるだろ。怪異姫、どうよ!?」
「真面目に、授業、してくださいッ!」
「――う゛っ」

 途端、二度目の右ストが決まった。キツい。


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