嫌いっていってみた

■アケミちゃん
「そっかあ。じゃあ、私も嫌い」
 いつもと変わらない調子の受け答えに貴方は面食らった。こういう反応をされるとは思ってなかったな……。
 そっけなく空を向いた彼女をまじまじと見てみても、その表情は人形さながら微動だにしない。
 これ以上の反応は望めないだろうと踏んだ貴方がドッキリであることを告げようとした瞬間、はあ、とひとつ溜息を吐いた彼女。
「つまんない」

■ヒギョウさま
「きっ……!?」
 ぴし、と固まるヒギョウさま。その様子は北京ダックのようだった。
 緊張が解けていくと同時に、本当に炙られてしまったかのように顔が皺くちゃになっていく。
「ウソよ、ウソなのよ。ひどいこといわないでほしいのよ」
 ひぐ、と鼻を鳴らして大粒の涙を溜めこむ彼にドッキリだと告げると、ごくりと喉が主張するのに遅れる視線。揺れていた目がゆっくりと動きを止めていく。
「……ほんと?」
 本当だよ、ごめんね。
「〜〜っ! よかったのよ〜っ! じゃあナマエ、ヒギョウのことだいすきってことなのね? ヒギョウは、ナマエがヒギョウのことスキでもキライでもだいすきなのよ!」
 謝った直後、勢いよくハグをされた。勢い余って骨が音を立てた気がするのは、きっと貴方に対する小さな罰だろう。

■おおいさん
「きらい」
 きょとんとする彼になにもいわず向かいあう。指に絡んだ火のつく前の煙草が少しばかり変形した。使用前の棒切れに目を落とし、そのまま固まってしまった。
「……ん〜。じゃあさあ」
 煙草を箱に戻し、その箱を鞄に入れ――がく、と貴方の体が揺れる。
 貴方は顔を顰めた。彼に手首を掴まれ、体ごと彼のほうに寄せられている。彼の爪が貴方の肌に食いこみ、若干のひりつきを訴えていた。抗議しようにも、ドッキリとはいえ傷つける言葉を口にした貴方だ。その権利はないだろうと貴方は口を閉ざす。
「ナマエのいのち、たべていいの?」
 とはいえ、これはさすがに抗議させてほしい。

■旅館の求人
「"仲良くしてほしい"なんて嘘だったんだ」
 機械越しでも伝わる冷たい声が貴方の胸を抉った。
「お前もそこらへんの人間とおんなじだ。特別扱いしないで老化の呪いでもかければよかったんだ。――求人雑誌に怯えるお前を想像すると、笑えてくるよ……!!」
 ――ツー……。
 ドッキリだと伝える前に電話が切れてしまった。こちらからかけ直したら出てくれるだろうか――一縷の望みをかけて折り返すも、貴方の携帯は黙るばかり。繰り返しても同じこと。ああ、しまった。馬鹿なことをした!
 ――そう思っていたのは貴方だけではなかったよう。
「なんでこんなにさむいんだよ……」
 けれど、それは貴方に届くことはない。

■邪視
「そ、うなん……ですね……」
 脱力したからか、彼がかけていたサングラスが外れ落ちていった。それに気づいていながらも棒立つことしかできない彼はだいぶショックを受けているようだ。
 サングラスを返そうとして、貴方は間違いを起こしてしまう。彼の目はそのまま見てはいけない――散漫だった貴方の頭は、見る見るうちに混沌と化していく。ああ嫌だ、死にたい、死にたい……!
「なのに、貴方は僕と"同じ気持ち"になってくれるんですね」
 激情に気をとられ、再びサングラスは宙を舞う。貴方も彼も、かしゃりと音を立てたそれに気づかないまま見つめあい――彼の手が貴方の手を絡みとった。
「なら、一緒に……どこまでも……」

■怪人赤マント
「出会い頭に乱暴な手段をとったことは謝罪する。……他になにか、失礼な行為を働いていたのだろうか。すまないが、心当たりがない。直せるならば直す、だから教えてくれ」
 と、深々と頭を下げる彼。貴方が慌てて、ドッキリだった、だから頭を上げてほしいと頼むと、綻んだ顔を貴方に向けた。
「……よかった。このような性格故、いつのまにか粗相をしてしまったのではないかと。ナマエに嫌われたわけではないんだな」
 誠実な貴方が好きだと答えると、「俺もナマエのことを好意的に思っている」と返ってきた。もう少し砕けてもいいんだよ。


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