好きっていってみた ■アケミちゃん 「好き……好き、かあ……」 貴方の言葉を受けて、ころりと目を丸くする彼女。噛みしめるように何回か呟いたあと、貴方の顔を覗きこんできた。不透明の瞳が貴方だけを捉える。 「私、"そういう気持ち"、わからないんだよね。だからそういうこといわれてもぜーんぜん。ナマエさん、そういうのに敏感?」 敏感というほどではないが、人並みになら。 「そっか〜……。なら、あなたに教えてもらおうかな。なんで好きっていったの?」 どう答えればいいか、答える行為そのものに羞恥心を感じている貴方を見、くすりくすりと笑う彼女。 「教えてよ〜。ふふっ」 本当にわからないんだよね……!? ■ヒギョウさま 「――!! ヒギョウもナマエのこと、だいすきなのよ!!」 出会ったときと変わらない万歳のあと、力強く抱きしめられた。ちょっと痛い。 「ニンゲンはヒギョウのどこが好きなのよ? ヒギョウはねー、んっとねー、いつもおやつくれる! うれしーのよ!」 更に力が強まる。ぎし、と体が悲鳴をあげはじめた。なぜか異質に感じられる"ただの目"が三日月を形作る。 「にへへ……お礼の"ぷれぜんと"あげるのよ。ニンゲンは見た目を気にするのね? カガミとかあったらうれしーのよ!」 お金、持ってるの? 「あ」 ――どさっ。 唐突に解き放たれる体。地面に尻餅をついた彼が呆けながら呟く。 「持ってないのよ」 そっか……。 ■おおいさん 「……。おれもすきだよ〜」 本当? 「ほんとほんと〜。んー……これあげる」 好意の表れとして唐揚げ串をもらった。……この前も買っていた気がする。好物なのだろうか。――おいしい。 あと一個で完食というところで、お礼をいうべく彼のほうに向き直る。静かに微笑みだけを湛える彼に、貴方は首を傾げた。 「肥えたほうがお得だもんね」 ――今、なんて? ■旅館の求人 「は?」 足蹴にされてしまった。 「まだなにも知らないのに、よくそんなこといえるよな。なんだ、とんちか? 僕を納得させてみろよ」 そういわれても……。 貴方はしばらく思考したあと、ふと思ったことを聞いてみた。 ところで、どういう"好き"だと思ったの? 「は……あ!?」 耳赤くなってたりしない? 「なっ……てない!! どういう、とか……そんなのない!! 教えるか、バーカ!!」 ――ツー、ツー。 電話が切れてしまった。……仲良くなるにはまだ時間がかかるようだ。 ■邪視 「ええ、ふふ。僕もナマエさんのこと好きですよ」 サングラス越しに目尻が柔らかくなったのが見えた。おかしそうに笑うのに合わせて、彼の特徴的な長髪が揺れる。 ……邪視って髪、なかったような? 「ああ、生者に擬態しているんですよ。初対面のときは力を発動させてしまいましたけど、ある程度は制御可能で……目だって本当は――」 彼の話を聞いている中、貴方は道端に"そういう本"が落ちているのを見つけた。貴方の視線を追いかけた彼が「きゃあーっ!?」と悲鳴をあげる。 「ハ、ハハ、ハレンチな!!」 ――えっ!? 出会ったときと同じように顔を赤くした彼を見て驚く貴方。二つあるはずの目が一つしかない! しかも縦型だ! 「ナマエさん、今すぐその本から離れて!! あんなもの見てはいけませんっ!!」 あの、擬態が解けてるんですけど―― 「不浄なものより僕の目をみてください!!」 見ないでって前にいわれたのに!? ■怪人赤マント 「す、好き……そうか……」 顎をさすりながら目を背けられた。素直な言葉に弱いんだな……。 「あのような出会いかたをしたというのに……貴殿は寛大な御方なのだな。……感謝する」 どういたしまして。 「自分――俺もナマエを好意的に思っている。これからもおつきあい願いたい」 まっすぐな目と差し伸べられた手がこそばゆくて、少しだけ視線を外してしまった。まばたきをする彼。その後、ふ、と弧を描く口。 「貴殿は存外はにかみ屋なのだな」 貴方のせいですと答えるとお互いさまだと返された。お堅い印象だったけれど、"存外"口が回るみたいだ。 [前][目次][次][小説TOP][TOP] [しおりを挟む][感想フォーム][いいね!] |