風邪を引いた ■アケミちゃん 「じゃあ、看病させて。やってみたいな」 風邪を引いたと貴方が話すと、手を合わせてかわいくおねだりしたアケミちゃん。人間の生活に興味があるのだろう申し出に快くうなずくと、「確か冷たいシートをはったり、林檎をすりおろしたものを食べさせるんだよね?」と冷蔵庫へ向かった。 冷却シートと小皿を持ってきた彼女にベッドへ連れてかれ、小皿の中身を食べさせられる。林檎の優しい甘さが身に染みておいしい……。 「看病すると人間ってこういう反応するんだ、勉強になるなあ」 ■ヒギョウさま 「ニ、ニンゲン? どうしたのよ……?」 突然ぐったりとした貴方を見て、手にしていたおやつをぽろぽろとこぼしてしまったヒギョウさま。一瞬だけ強ばった体を貴方にくっつけ、羽を振りかざしながら「ナマエ、ビョーキ? ビョーキなのね?」と涙目になる。 風邪っぽいと答えると、「ならカンビョーするのよ!」とキッチンへ向かった。すぐさま聞こえてくる破裂音。……大丈夫!? 数分して、ダークマターと称されても仕方がない物体が入った小皿を差し出してきたヒギョウさま。屈託のない笑顔に罪悪感を覚えそうだ。 「今日は一日、ヒギョウにぜーんぶ任せるのよ!」 ■おおいさん 「じゃあいいや。またね〜」 一緒に昼でもどうかと訪ねてきた彼に事情を話すと、素っ気なく扉を閉じられた。貴方がベッドに戻って一時間ぐらい経ったころ、再びインターフォンが鳴る。出迎えた先には、コンビニ袋を片手に手を振るおおいさん。「じゃあ家で食べようかなって。お粥いる〜?」とのことで、実質彼は貴方のことを看病するつもりのようだ。 おおいさんに作ってもらったお粥を食べていると、彼がこちらを見つめていることに気づく。頬杖をつきながら浮かべている微笑みは、今の貴方みたいに熱っぽいような……。 「……おいしい?」 ■旅館の求人 「ん? なんか顔赤く――おい!?」 彼の悲鳴が聞こえてすぐ、貴方の意識は朦朧としていった。床に倒れた際の痛みも慌てた声も輪郭がなくなって届かない。背中が痛いような、かと思えばやけにふわふわしているような……出迎えたはいいけど、情けない姿を見せてしまったなと反省しているうちに、ぼやけていた視界が徐々に元の姿を取り戻していく。 気がつけば、貴方はベッドの上にいた。自室には自分以外誰もいない。さすがに帰ってしまったかなとあたりを見回すと、近くに小皿が置いてあることに気がついた。うさぎカットの林檎が二つ。 貴方はそれを見て微笑んだ。……ありがとう。 ■邪視 「でしたら、なにか体にいいものを買ってきますね。いつもお世話になっているお礼です」 貴方の状態を察し、踵を返す邪視。十五分ほどして戻ってきた彼の片手には、でこぼこになったレジ袋が一つ。テーブルに品物を置きながら、「なにが好みかわかりませんでしたので、いろいろ買ってきました。どれがいいですか?」と笑顔を向ける。爽やかで浄化されそう。 選ばせてもらったものを食べていると、キッチンから賑やかな音がひっそりと聞こえてくる。少し経って貴方のもとに運ばれたのは、華やかな見た目をしたお粥だった。 「キッチン、使わせていただきました。……他になにかしてほしいことがあったらいってくださいね」 ■怪人赤マント 「寝ていろ。俺が看病する」 そういってキッチンに駆けだしていった赤マント。……遠くからごろごろと、なにかが擦れる音が聞こえてくる。正体をあれこれ考えていると、彼が部屋に戻ってきた。そっと手を添えられ、頭を持ち上げられる。――裏側に伝わるひんやりとした感覚。硬くも柔らかい不思議な沈み心地……水枕を作ってくれたらしい。 お礼をいおうとして息を呑む貴方。あの――それ、ネギ? 「ああ。風邪にはこれが効くんだ。柚子湯も作ってやるからな」 お、おばあちゃんの知恵袋! おばあちゃんの知恵袋だ……! [前][目次][次][小説TOP][TOP] [しおりを挟む][感想フォーム][いいね!] |