コマコ×レイ

 藍色と目が合った。
 軽い風切音に違和感を覚え首を曲げると、無を湛えるそれとかちあう。あれは人間だ。引きずりこむ目力に一瞬呆然としたけれど、あの人が空から落ちてきている!

「わーっ! 待って待って待って!」

 このままでは大惨事になってしまうと走りだし、我を忘れて両手を差しだしたけど降りかかる感触はなく。呆けた手の先でぐらぐらと人一人の重力に揺れるハンモックと藍色の彼を見て、なんだ全て計算済みかと安堵に胸をなでおろした。――だからって危ないのには変わりがない。

「大丈夫ですか?」

 どんなことをしたって個人の自由なのは確かなんだけど、お節介を焼きたくなってしまった。ハンモックに近寄って彼の顔を覗きこむ。風に晒さればらけた長髪にうずもれるその顔は石膏像みたいで、素直に綺麗な人だなあなんて思ったりした。

「……あの? もしもーし……?」

 間を置いてみるも、返事がなく目を閉じたまま。気を失っているのだろうか、だったら誰かに連絡しないと。あと少ししたら人を探そうと決意した直後、ぐわ、と目が開けられた。
 最初交わった、ごろりとした藍色が私を捉える。じ、と音もなく見つめられる。見定めているような視線に呼吸も苦しくなりそうだった。そんな惹きつける妖しさがあるひとが体を起こして、ふあ、と控えめな欠伸をする。そして。

「ごめんね?」

 申し訳なさそうに両手を重ねた。

「ごめん?」
「さっき。勘違いさせてごめんね」
「ああ……いえ、こちらこそお節介を焼いてしまって。でも、危ないですよ」
「うん……でも、趣味だから」

 本当にごめんね、と答える声は淡くも凛としている。ハンモックと着物が擦れる音と共に、彼は地面に降り立った。次いでまた、じ、と私を見る。

「だれかのお客さん?」
「ガーディアンです。今日から戦闘部門に配属されて」
「……じゃあ、自己紹介……だね」

 がし、と繋がる手と手。じんわりと伝わるひとの熱に面食らいながら、彼の顔に視線を移動していく。敵意のない微笑みに心臓がたじたじになりそうだ。

「ぼく、二梁コマコ。よろしく――」

 ――じっ。

「乾レイです。よろしくお願いします」
「――レイ。こちらこそ」


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