本編/学園長

 物語の舞台とはまた異なる世界では魔術・科学・錬金術の3つの技術が栄えていた。そのうちの一つ錬金術はあらゆるエネルギー・物質をマナと呼ばれる元素に分解し、再構築させるものである。
 そして少女ことメルフィも見習いながら錬金術士の一人であり、とある工房の留守を任されていた。
 そんな時である。外からパカラパカラと聞こえてきた馬車の音が工房の前でピタリと止まった。今日は店を閉めているし、誰か客が来るとも聞かされていない。しかし店主である師匠は現在不在なので自分が対応しなければなるまいと、メルフィは参考書を閉じて玄関を開いた。

「え?えぇ……。」

 しかし店先で待っていたのはメルフィが想像していたものと異なっていた。真っ黒な二匹の馬に、これまた黒を基調とした立派な馬車。しかし馬車の中はおろか、操縦席にも人の姿が見当たらない。町の中心街から離れたここで、わざわざアトリエの入り口に馬車を放置していくとははた迷惑な客である。馬車が止まってからさほど時間が立っていないため、まだ乗り主は近くにいるだろう。注意をしようとメルフィが思ったときである。

「うわっ!?」

 ひとりでに馬車の扉が開いたのである。しかも先ほどは分からなかったが、中には人間が入るぐらい大きな棺桶。
 おそらく近くで魔術師か錬金術士が隠れており、このホラーじみたドッキリをかましているのだろうが趣味が悪い。これはますます文句を言わねばなるまい。
 そう考えたメルフィの意識は棺桶が勝手に開くと同時に途切れた。



 そうして気が付けばナイトレイブンカレッジなんていう全く聞いたことがない学校にメルフィはいた。閉じ込めれられた棺桶から出られたと思ったらネコみたいな魔物に絡まれ、闇の鏡とはやらには魔力はあるが少ないし特殊過ぎてどの寮にも適性なしと言われるし散々だ。そもそもこちらは入学するなど一言も言ってないのに。
 ともかく貴方達には入学資格がないから元の場所に帰らせると学園長に告げられたが、なぜか魔法の鏡にそれは不可能だと告げられてしまう。同じく訳も分からず未知の世界に連れ込まれた少女・ユウとメルフィは顔を見合わせた。
 それから紆余曲折あってユウとメルフィ、そして猫もどきのグリムは長らく放置されたオンボロ寮で寝泊まりしつつ、学園に通うことが許された。
 そんな中、メルフィは1人学園長のクロウリーに呼び止められる。

「しばらく様子を見ていましたが、どうやら貴方の錬金術は私の知るものとは少々異なるようですね。」
「そりゃそうでしょう。国どころか世界が違いますし、技術だって違って当然です。」

 メルフィの錬金術はこの世界の魔法同様、学べば誰でも習得できるというものではない。しかし錬金釜などの道具なしに調合できる彼女の技術は材料さえあれば場所を選ばず扱える。もっとも調合失敗を避けるため何かしらの下処理をするのが基本だが。

「しかし人工的に魔法石を作成できるというのは素晴らしい。たとえ使い捨てであってもね。」
「……嫌味をいいたいだけならユウのもとに戻りますけど。」
「ああ、そのように拗ねないでください。誉めているのですよ。」

 学園長は魔法石というがメルフィが錬成しているのは厳密には異なるものだ。高濃度のマナを固体化させたそれは魔石と呼ばれるものであり、元の世界では魔術の補助媒体、機械のエネルギー、錬金術の材料となる。しかし魔法石と違い透き通った色が濁れば元に戻ることはなく、最後は只の石ころとなる欠点を持つ上消耗が激しい。考え方によってはそれもまたメリットとなりうるが……、今は関係ない話だ。

「そこで定期的にこちらが依頼する仕事をこなしてほしいのです。もちろんマドルはお支払いしますとも。」
「無茶振りや逆ぼったくりは止めてくださいよ。」
「そんなことするわけないでしょう。私、優しいので。」

 出会ったときから胡散臭い鳥仮面の言葉にメルフィはため息をこぼす。この学園の関係者の言葉はどこまで信用していいのか分かったもんじゃない。

異世界取引


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