本編/オルト

 メルフィがいた世界において生物は魂・体・縁の3つで成り立つと言われる。魂は思考活動を行うための精神システムで、体は自然治癒機能をもった器、そして縁によってこの二つを結びつける。これら全て人工的に作られた存在をホムンクルスと定義されるが、命の価値を下げるとかなんとかで禁術の一つとされていた。国の秘密機関がホムンクルスの実験をしているという噂もあるが、都市伝説の一つに過ぎないだろう。群衆はお上の闇を知りたがり、ないならないで捏造したがるものだから。
 反対にこれら3つの条件が揃わなければ禁術とみなされないことがほとんどで、疑似的な不老不死を得ているもののなかには、肉体を何度も作り替えているものもいる。もっともそれも誰でも通用する手段ではなく、肉体と魂を結ぶ縁が上手く機能せず、拒絶反応を起こすことが多い。万人に効く特効薬などありはせず、自然の摂理を無視した技術であればあるほどリスクは高いってわけだ。
 そして同時に3つのどれかが欠けたものは生命体として認められない。

「どうしたの、メルフィさん?」
「いや、ただオルトの体はよく出来てるなって。」
「わー、ありがとう!僕の体はね、兄さんが僕のために作ってくれたんだ!」

 つまりメルフィの価値観において、機械仕掛けの体を持つオルトは生物に当てはまらないということだ。どちらかといえばそれを模した人形の類か。それに彼の言動も兄であるイデアがそうプログラムしただけの可能性もあり、それが事実であれば魂の条件も満たさない。
 イデアは今のオルトも明るい性格を"受け継いでいる"と言っていた。それはつまり、ここにいるオルトが今は亡き人を模した存在でいるということではなかろうか。

「(ホムンクルスが禁術とされ、自我を持つ魔法人形もグレーゾーンとされる理由も分かる気がする。)」

 もっとも生物の定義など彼女の故郷での話であり、価値観は所によって千差万別だ。異世界であるツイステッドワンダーランドに彼女の常識を押し付けるのは違うだろう。
 それに彼が何者であろうとメルフィには関係ない話だ。他の問題児達と違ってオルトに敵意がないのは事実なのだから。

「今のオルトはイデア先輩のおかげなんだね。」

 自らパンドラの箱を開く趣味を、彼女は持ち合わせていなかった。

紛い物のココロ


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