本編/エペル

 アルバイト経験は正直全くないユウだったが、日本人らしい生真面目さがある彼女はモストロ・ラウンジでも好評らしく、10のイソギンチャクよりずっと使えるとのことだった。そもそも無理やり働かせられ、やる気ゼロの不良生徒と比較すること自体がおかしいのだが。
 対するメルフィのアルバイトはというと、錬金術を活用したものがほとんどだった。問題児の多いナイトレイブンカレッジは喧嘩のはずみで設備を壊すことはよくあるし、錬金術や魔法薬学の授業で教師の注意をきかず錬金窯を爆発させるなど日常茶飯事だ。魔法でも直せるもののその強度は術者の力量に左右され、全く元通りとなれば片手でちょちょいのちょいとはいかない。
 その点メルフィの錬金術はシャンデリアを魔法石ごと修復した実績がある。エースが治せるなら言えよと非難したが、真面目に窓ふきをしていた彼女はシャンデリアを破壊したその場に居合わせておらず、学園長から話を聞いた時には既に三人と一匹はドワーフ鉱山に出発していた。当時は連絡手段もなかったし、仕方なくメルフィは1人修復作業を行ったのである。まさかドワーフ鉱山でユウ達が怪物と戦う羽目になっていたとは思いもしなかったが。
 そんなこんなで学園長は外部に託すより安いと、雑用係でなくなった今もメルフィに修理依頼などをしていた。なにかと難癖付けてマドルをケチろうとするのが困り者だが、そんなに不満ならもう一度破壊してやるから業者に頼めと脅し返した。

「あれ、メルフィサン?」
「いらっしゃい、エペル君。」

 それがシルクハットと髑髏のロゴが入ったエプロンを身にまとい店頭に立っているものだから、エペルは思わず目を丸くした。

「ミステリーショップでバイトしてたんだ。」
「学園長からの雑務もあるから頻度はそう多くないけどね。」

 何でも揃うミステリーショップは危険物も多く、その方面の知識が多くなければ採用されることはない。メルフィもこの世界の魔法道具についてはあまり詳しくなかったがそこは錬金術士。呑み込みも早く、そのあたりの問題はあっという間に解決した。

「ほら、ここって本当になんでも揃ってるでしょ。おかげで勉強になることも多くって。」
「メルフィサンは本当に錬金術ばっかりだね。」
「別に錬金術の、とは言ってないんだけどなぁ。」

 エペルの指摘に眉をたらし両手をあげるメルフィだが、実際その通りなのだから否定できない。
 妖精の粉や絶縁の指輪をはじめに、ミステリーショップには様々な商品が揃っている。もちろんそういった特殊な商品はサム本人の管轄だが、アルバイトをすることを条件にどんな商品なのか見させてもらっているのだ。

「だってメルフィサンは口を開けば一に錬金術、二にユウサンでしょ。」
「別にそれ以外の話だってするのに。それでエペル、ここには買い物に来たんでしょ?」

 あまり世間話をしていたらサムに注意されてしまうとメルフィは笑って問いかけた。

アルバイターのひと時


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