本編/リドル

 万年貧乏学生のユウとメルフィを気遣ってか、例のお茶会騒動を切っ掛けにハーツラビュルはしばしばなんでもない日のパーティーに招待していた。そうでなくともトレイから試作品とケーキを分けてもらっているが、女の子らしく甘いものに目がない2人は遠慮なく参加させてもらっている。勿論その準備に手伝わされるが、ただ飯にありつけると思えば安いもの。
 そんな非日常な日常の一コマだ。

「君は今まで学校に通ったことがなかったのかい?」
「そうですね、錬金術士は学校より工房で修行するのが一般的なので。」

 しばしば師匠の話をするメルフィだが、彼女の口から先生という単語がこぼれたことがないとリドルはほんの少しだけ気になっていた。そのことを尋ねれば彼女は学園生活とは無縁だったと返した。彼女の世界では学校に通うのは、金持ちか突飛抜けて優秀な人間ぐらいという。

「なら基本的な知識はその師匠、あるいは両親から教わったのかな。」

 学校に通っていないという割に(常識の差異はあれど)学業に支障のない彼女に、リドルがさらに質問を重ねる。

「あ、いえ。私の場合は教会のシスターさん達に教えてもらいました。両親はいませんでしたし、師匠のもとに弟子入りしたのも割と最近のことでしたから。」
「え。」

 その言葉にハーツラビュル寮生の間に動揺が走る。もしや彼女は教会育ちで、孤児だったところを師匠に引き取られたのか。
 ツイステッドワンダーランドでも様々な事情があって孤児が存在しないわけではない。だがその数は少なく、数少ない孤児には何かしらの問題を抱えてることがほとんどで、そんな彼らの過去となると非常にデリケートな話となる。メルフィの元いた世界はこの世界より遥かに魔物の数が多く、積極的に人を襲うというのだから、それ関係で親を亡くしたのではなかろうか。それなのにオーバーブロッド事件の際、リドルはメルフィ達を録でもない親に育てられたのだろうと罵った。彼女には自分に寄り添ってくれる親が存在すらしなかったというのに。
 なお実際はメルフィの両親は健在であり、単純に仕事で留守にすることが多いだけだった。魔物が身近な分その対策はこの世界より発達しているし、戦闘民族よろしく平気で仕留めている。モーニングスターを振り回すメルフィ自身が良い例だろう。教会で勉強したというのも、それが彼女の国の文化と慣習であり、そこに深い意味はない。いわば寺小屋みたいなものだ。
 ちなみに既にそのことを知っているユウとグリムは先輩達とメルフィの間に入って説明するわけでもなく、もぐもぐとタルトを頬張っていた。たまの贅沢を堪能せずになんとする。

「す、すまない。まさか君にそんな過去があったとは……。知らなかったとはいえ配慮が足りなかったね。」
「え、配慮されるようなことありましたっけ。」

 なお誤解はきちんと解けた。

君の履歴書


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