外伝/True end

※深淵堕ち夢主とドンパチした後のダイジェスト展開。

 港町とは異なれど、のどかな村の風景はメルフィも知っているものだった。新品の武器を大事そうに抱えているところを見る限り、武器屋で働く幼馴染は依頼品の配達をしているのだろうか。しかしそんな日常も何の前触れもなく崩れ去る。
 村が突如崩れ始めたのだ。
 円を描いて黒で塗りつぶすかの如く、外から外から形を失っていく町並み。人々は突然の天変地異異に逃げ惑うが逃げ道などどこにもない。闇は老若男女どころか動植物も無機物も容赦なく飲み込んでいく。悲鳴すら聞こえない無へ飲み込まれるのは幼馴染も例外ではなく。

「やだ……、いや!まだ死にたくない!」

 生きたいと叫ぶ幼馴染にメルフィも手を伸ばすが、その手はするりとすり抜ける。それもそうだ。メルフィはこの地獄絵図を見ているだけで、そこには存在しないのだから。
 ならばこれは夢か幻か。どちらも違う、これはきっと   




「メルフィ!メルフィ!」

 ゆさゆさと体を揺らされ瞼をあげたメルフィの目に映ったのは、丸い瞳からぽたぽたと雫をこぼす監督生の姿だった。いつもは草木も綺麗に整えられた中庭は化け物が暴れた後のように荒れていて、傍には砕け散り黒焦げになったガラスの破片が散らばっている。こちらを伺うように見る先輩や友人達は傷だらけで、オーバーブロッド事件の後のようだ。

「……ユウ?」
「よかった、目が覚めて!」

 ぎゅっと自分を抱きしめる親友の体温にメルフィは目頭が熱くなるのを感じた。




 翌日、メルフィは医務室のベッドの上で中庭で何があったのか聞かされた。どうやら銀の鍵は宙の領域に繋がり、深淵に潜む者に操られていたのだという。どうりでここ最近の記憶が朧げなわけだ。
 自己の存在を明らかにした深淵は遊びと称して、気まぐれに生徒を甚振り、魔力を奪い吸収。奪った魔力をもとに己の眷属を召喚する潜む者は圧倒的な力を放ち、寮長や教師クラスの魔法士であっても正攻法ではとても敵う相手ではなかった。そこでNRC側がとった手は不意打ちによる鏡の破壊及びグリムの炎で焼却というものだった。というのも深淵はメルフィをまだ操ってるにすぎず、完全に同化していなかったためだ。影の鏡の機能を破壊することでこの世界と宙の領域を繋ぐ門を閉じたのだ。後遺症はいくつか残っているが、時が経つにつれそれもなくなることだろう。それまでにどれだけの月日が必要か皆目見当はつかないが。
 学園長によると今回の騒動は表向きオーバーブロッドとして処理することにしたらしい。本来オーバーブロッドも由々しき問題であるが、生憎この一年間ナイトレイブンカレッジではお馴染みのイベントと化していた。その1つとして扱えば今回の騒動の存在感は少しは霞むし、なにより道具1つで深淵の門を開いたと馬鹿正直に記録するよりマシとのことだ。それだけ深淵は危険な存在だったということだろう。あのまま完全に体を乗っ取られていたら、本人も周囲もどうなっていたことやら。
 ともかく彼女は要注意人物としてしばらく学園の監視下におき、保護及び観察としてこれまで通り学園に通わせてくれることにいたった。本人の意図とは異なり洒落にならない事件を起こしたのは事実だが、同時に彼女の能力の高さも証明されたのだ。ただ危険だと排除するのも惜しい。そういう考え方ができるのも曲者揃いのナイトレイブンカレッジだからこそだ。

「元の世界に帰るの諦めようと思うんだ。」
「……え?」

 カーテンで仕切りられ2人きりの空間でそうこぼしたメルフィにユウは戸惑った。ユウは彼女が元の世界に帰るためにずっと努力しつづけたことを誰よりも間近で見ていた。思いつめて自棄になることはなかったが、それがむしろ彼女の意志の強さを証明していたのだ。その結果があれだとしても、他に方法があるかもしれないのに、どうしてそんなことを言うのかユウには分からなかった。

「私の世界はね、もう崩れて形を失っているんだよ。」

 今度こそユウは言葉を失った。
 深淵が見せたのは悪夢でも幻でもなく、たしかにあった現実なのだ。それが今か未来か分からないけれど、幼馴染の姿があったことを考えれば近いうちの出来事だ。そして深淵が見せた崩落はあの村に限らず、メルフィの知るあちこちの地域で起きていた。終焉に向う世界はもはや彼女の望んだ故郷ではない。

「でもね、だからといってユウまで諦める必要はないよ。帰りたい場所があるなら、帰るべきだし、これまで通り私も協力する。」

 メルフィはユウに依存している。それは本人も自覚があった。でもだからといって彼女を自分に縛り付けたいとは思っていないのだ。彼女の幸せをメルフィも願っているし、その笑顔を奪うようなことはしたくない。

「だけど許されるなら、この世界にいる限りは私も傍にいさせて欲しい。」

 そうすれば私は私でいられるのだと笑った彼女の手をユウはぎゅっと握りしめた。

潰えた希望の痕






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