本編/デュース

 今年のナイトレイブンカレッジはトラブルだらけ。そもそもの始まりは入学式に紛れ込んだ2人の異世界の少女と一匹の魔獣であり、その後のオーバーブロッド事件にも何かと彼女達が関わっていた。一部の生徒には疫病神でないかとささやかれているが、いずれの事件も彼女達がいようといまいとおこりかねていたことだ。むしろ彼女達がいたおかげで最悪の事態を避けられたともいえるし、そもそも彼女達は常に巻き込まれた側であった。
 そんな少女達の一番の願いは勿論元の世界に戻ることだ。自称優しい学園長も元の世界に帰る方法を探してくれているようだが、アロハシャツで南国へバカンスに行くあたり当てになりそうにない。詐欺まがいのところはあるが契約において嘘はつかないアズールの方がはるかに信用できるってものである。対価が怖いので彼は彼で安易に頼ることはできないのだが。(この学園、信頼できる人間にたいして信用できない人間が多すぎやしないだろうか)
 ともかくこの世界で最も信用できるのは自分自身であり、ユウとメルフィは自らその手段を模索していた。かなりの数の蔵書をほこる図書室は学生なら無料で利用できるのもあってよく活用している。

「メルフィじゃないか、監督生と一緒じゃないのか?」

 そんな中、ここではちょっと珍しい人物が棚から取り出した本に目を通していたメルフィに声をかけてきた。

「ユウならアズール先輩に呼ばれてモストロラウンジに行ってるよ。本来バイトに入っていたこが怪我したらしくって。」
「モストロラウンジでのバイトか……。」

 その人物は苦虫を噛んだようなかをする。それもそうだ、彼の場合苦い経験があるのだから。

「それでデュースが図書室に来るなんて珍しいね。」
「ちょっと授業でやらかしてな、補修になったんだ。」

 今日はその課題を自力でこなすために図書室に来たのだという。
 勉強が不得意な彼が補修になるのはこれが初めてではなく、なんだかんだ面倒見の良い友人や先輩方に協力してもらうことも多い。しかし彼らも学生である以上いつでもデュースのために時間をさけるというわけではないし、いつまでも人に頼っていてばかりでは理想の優等生になれないと、彼なりに頑張っているようだ。

「メルフィはいつもの調べ物か?」
「そんなところ、前に試したのは駄目だったから他に材料になりそうなのはないかなって思って。」
「……。」
「えっと……。」

 突然黙り込んでじっとメルフィを見つめ始めたデュースに彼女は戸惑う。何か気に障るようなことを言ったつもりはないのだが、一体どうしたのだろうか。

「あ、いや。メルフィはいつも錬金術のことを考えてるだろう、いつ休んでるんだろうと思ってな。」
「ああ、そんなこと。勿論夜は普通に休んでるし、そうでもなくとも小休憩ぐらいいれてるよ。」

 もともと錬金術自体半分趣味のようなメルフィだが、集中力には限度がある。甘いものをつまむことだってあるし、こうした雑談だって立派な休息だ。

「それより課題があるんでしょ、私のことを心配する暇があるならそっちに集中しなよ。」

 そういいながらメルフィはデュースを書籍で小突いで、本棚の前を去っていった。

辞典と栞


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