本編/カリム

 メルフィが元居た世界にも飛行魔術は存在し、魔術が使えなくとも錬金術や化学の力を使えば別の手段で空を飛ぶことは可能だった。

「何度見てもカリム先輩の絨毯は立派ですね。」

 その一つに魔法の絨毯があり、荷物移送に使われている姿をメルフィも目にしたことがある。それらと比べてもスカラビアにある絨毯は特別なものだった。

「道具に自我を持たせるのって相当ですよ。」
「メルフィの世界のは違うのか?」
「そんな風に誰かに懐くってことはないですね。」

 ふよふよと寄り添うようにカリムの傍で浮かぶ姿はまるでペットのようで愛らしい。
 魔法道具も機械も多くが自我を持たず、正しく扱える人がいなければただのガラクタだ。自動式のロボットだってプログラムに即して行動しているし、真の意味で感情を有することはない。もっとも感情や自我は思わぬエラーの原因となりかねないので、道具としてはないほうが都合がいいのだが。

「色艶もいいですし、レプリカとはいえ国宝品を模しているだけはありますね。」

 確か熱砂の国の毛織物はとても高価なものだったか。以前ジャミルが話していたことを思い出す。性能だけでなくガワの価値だけでも相当なものとなるだろう。

「本当、何でできてるんだろ……。」

 一度分解して調べたら自分でも作れるだろうかとメルフィがつぶやいた瞬間、絨毯はさっとカリムの背後に隠れる。どうやら危険察知能力もあるらしい。

「お、どうしたどうした?」
「あらら、怯えちゃったみたいですね。人のものに手を出す趣味はないんですけど。」
「……ん?なんだ、お前、魔法の絨毯が欲しいのか?」
「いや、違いますけど。」

 しかし何をどう解釈したのか、カリムはメルフィが魔法の絨毯そのものを欲しがってると解釈したらしい。まだ短い付き合いとはいえ経験上面倒なことになるとメルフィは即座に断るが、カリムは人の話を聞いているようで聞いていないタイプの人間だ。

「うーん、でも流石にこれをあげるわけにはいかないしなぁ。代わりといったら難だが、今からひとっとびでもするか!」
「え、別に私は……!」
「遠慮するなって!」

 制止するメルフィの言葉も無視してカリムは彼女の手をとり、絨毯の上に乗り込む。魔法の絨毯も先ほどの警戒心はどこへやら。持ち主が持ち主なら既にノリノリだ。

「よーし、出発するぞ!」
「だからそういう所ですよ、カリム先輩!」

 これはまたジャミル先輩に怒られるパターンだと、以前ユウも一緒に乗ったときのことを思い出し叫ぶメルフィだった。

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