本編/マレウス

 オンボロ寮は校舎から外れたところにあり、周囲には特筆するものがないのもあって夜はひときわ静かな場所だ。街頭もなく妖精達の光が一際輝くここは天体観測にうってつけだろう。消灯後の外出は禁じられているが、それら目的でふらりとオンボロ寮付近に立ち寄る生徒もいる。

「ツノ太郎のツノは本当に立派ですよね。見たところ、竜種か何かってところでしょうか。」

 その1人が廃墟マニア・ツノ太郎である。ユウはさておきマジフト大会で彼がディアソムニアの寮長だと知ったメルフィだが、今更態度を改めるのもあれかと公の場ではない限りはそのままの呼び名で接し続けることにした。マレウスもそれで良いと言っているのだから問題なかろう。オンボロ寮の監督生は心臓に毛が生えていると言われているが、こっちもこっちでなかなかに肝が据わっている。

「正解だ、僕が恐ろしいか?」
「それだけの話なら別に。私の世界にも竜人族はいますからね。」

 脅すように笑うマレウスに、こちらに敵意がないのなら問題ないとメルフィは首を横に振る。
 彼女の母国はもともと小国の集まりだったというのもあり、多種多様な民族が生活していた。エルフ、ドワーフ、小人、獣人、人魚。貿易都市ということもあってすれ違う人々の姿は様々だった。店番中に竜人族が来たこともあるが、それで恐怖を味わったことは一度もない。確かに彼らは人間に比べ腕力も魔力も強いことが多いが、それだけにプライドも高い。こちらからけしかけなければ礼儀正しいのである。強者の余裕というやつだろう。
 ともすればマレウスにも同じことが言えるのではないかとメルフィは考えたのだ。現に無知であったユウやメルフィに対し、マレウスは寛容的であった。鼻につく高慢な物言いが玉に瑕だが、実際に偉いんだから仕方あるまい。セベクに若様と呼ばれるだけの地位が彼にはある。

「それにツノ太郎は人間が好き……、というより興味があるんでしょう。それなら無暗に殺すようなことはしないはずですから。」

 竜の力を持ち、長き時を生きた彼にとって、人間の学び舎で得られるものだとたかが知れている。それでもこの学園に通うのは、きっと人の営みに興味があるからではなかろうか。

「殺さぬからといって害さぬとも限らぬがな。」
「貴方は私を怖がらせたいんですか。」

 皮肉で返すマレウスにメルフィは思わずジト目になる。そういうこと言うから周囲から距離を置かれるんだぞ。

「私は貴方と良き隣人でありたいと思っていますよ。」

 例え瞬きの様に短い交わりだとしても、仲良くできるならそれにこしたことはない。

高貴なる血


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ここではドラゴンの中に更に妖精種と幻獣種があると想定しているよ!
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