本編/ルーク
家族というものはどこか似ているところがあるもので、それは容姿であったり生活習慣であったり。血のつながりがなくたって共に生活していれば影響されるものがある。
「探究者が恋の歌を口ずさむとは珍しいこともあるものだ。」
オンボロ寮付近の畑で水やりをしていたメルフィにさも偶然とばかりにルークが声をかけてきた。たまたま通りかかるにはオンボロ寮は辺鄙な場所にあるので、おそらくメルフィかユウの観察に来たのだろう。オンボロ寮組でなくとも彼にはそういう節がある。
「ユウが歌っていたのが耳に残ってまして。」 「探究者にとってもトリックスターの歌は印象的なんだね。」
消費文明は芸術にも影響するのか、メルフィの元居た世界に比べこの世界や日本は日々多くの音楽が人から人に送り届けられている。メルフィにとって耳慣れないメロディも多いが、規則性のあるリズムはそれだけで心地いい。
「まあ、だからといって邪神を称える歌をにこやかに歌っていたときはぎょっとしましたが。」 「トリックスターらしいと言えばトリックスターらしい話だ!」
おそらくルークも目撃していたのだろう。半目で語るメルフィの話に驚いたり詳しい話を求めたりすわけでもなく愉快そうに笑う。 監督生が歌っていたのは元々はごく普通の讃美歌をコズミックホラー風にアレンジしたもので、元の世界ではちょっとしたネタソングだったらしい。魔法が架空の話に過ぎず神の存在も不確かな彼女の世界では笑い話で済むのだが、生憎ここはツイステッドワンダーランド。魔力のない彼女が誤って何かを召喚することはなかろうが、それを真似した魔法士が何をしでかすが分かったもんじゃない。魔法という概念が確かな世界では歌は娯楽に留まらず、明確な意味を持って人を害すことがある。セイレーンの呪歌などが分かりやすい例だ。
「呪歌っぽいようで全くそうでない歌も世の中には多いですけど、いらぬ誤解を招きかねませんからね。」 「ただでさえトリックスターは騒動に巻き込まれやすい。控えるのが賢明だろうね。」
よく三馬鹿をはじめとした周囲のトラブルメーカーの愚痴をこぼしているユウだが、本人も本人でトラブル体質なところがある。根本的な文化の違いもあるが、避けられるトラブルは避けるべきだ。
「それで話は戻すが探究者には誰か懸想する相手でもいるのかい?」 「だからうつっただけで、深い意味はありませんよ。舞台役者が恋人を演じたからといって、お姫様を心から愛しているわけではないように。」
男子校のイレギュラーな女子生徒の恋愛事情となれば好奇心がくすぐられるのも無理はない。だが何度聞かれたってないものはないのだ。
「これだけのキャストがいれば、一人ぐらいお気に入りがいたっておかしくないと思うけどね。」 「いつか私とともに舞台を去ってくれる人達でもないでしょう。」
第一この学園の人々は夢を見るには癖が強すぎる。
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