外伝/Another route

※パラレルワールドで男監督生の話。ほぼ独白。

 細かい設定の差異はあれど、異世界は遥か昔から創作物の題材にされてきた。子供のころからゲームや漫画に胸を躍らせていたユウにとっても馴染みあるものだが、どれもフィクションの話である。友人達と自分も勇者になって無双したいなんて笑い話をしたことがあっても、まさか本当に自分がその当事者になると思うだろうか。
 だが異世界にきたからといって神様はチートスキルなんてくれやしなくて、可愛い美少女達に囲まれてハーレムひゃっほいなんてなるわけではない。夢と魔法の国だって実際その地に降り立てば現実となり果てる。もっとも現実が無情なものとは限らないし、日本学生基準で考えれば扱いはぞんざいだが衣食住が保証されているのもまた事実であった。
 それに同世代の少女と二人暮らし(+魔獣とゴースト)するなんて、ライトノベルあるある展開がなかったわけでもない。日本人的気質のせいでナイトレイブンカレッジでは優男と言われがちなユウだが、彼だって下心がまったくわけないがない。思春期男子なんだからちょっとぐらい期待したって罰は当たらないだろう。
 しかしメルフィは決してかよわい女の子なんかではなくて、むしろユウをかばって不良生徒をフルボッコにするような人間だ。

「弱い犬ほどよく吠えるって本当だよね。」

 血濡れのモーニングスターをぶんぶんと振り回しながらそんなことを言うメルフィに、護られている側のはずのユウまで一瞬恐怖を覚えたのはここだけの話である。そんな相手にうっかりラッキースケベなんてしてみろ、よくて絶対零度の眼差しだ。あらためて考えると自称無個性ラブコメ主人公のメンタルってすごいなとユウは思った。そんなことをエースにこぼしたらお前も大概だと返されたが。
 それこそ魔力もないくせオーバーブロッドに直面しても逃げ出さない人間が何言ってんだって言いたいんだろう。アプローチで失敗したからといって死ぬわけでもないが、絶体絶命でアドレナリンどばどば状態のあれとこれとは事情が違うのだ。同じ屋根の下で暮らしている相手と気まずい関係になったらと考えたら、それだけで胃が痛くなる。
 今時の草食男子らしいヘタレを発動させた監督生に対し、メルフィの方はいうとこれといって彼を異性としていないようだった。流石に男女の区別はあるが、その振る舞いは過保護な母親や姉のそれだ。自分が非力であることぐらい重々承知しているし、トラブルに巻き込まれているのは確かだが、何かと心配されては少々思うものがある。
 とはいえそんな距離感が共同生活するには居心地がよかったのは本当だ。欲を言えばもう少し自分を信頼してほしいってことぐらいで。

凡夫の夢語り


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