外伝/SS 02

(Episode 04/Episode 05/Episode 06


Episode 04
※中和剤と活性剤の話。
 以前話した魔法薬について詳しく聞きたいとジャミルに呼び止められたメルフィは二つ返事で頷いた。

「その中和剤というのは毒を服用した後でも効果があるのか?」
「あるにはありますけど、症状が出た後ではほとんど意味がないですね。その場合は素直に解毒剤をお勧めします。」

 あくまで中和剤は予防薬であり、治療薬そのものではない。毒の効果が出るのを阻害するが、毒を無力化する効果はもたないからだ。

「あと中和剤そのものに害はないんですが、人によっては毒となる可能性もあります。」
「……常日頃から薬を服用している人間か。」
「過去にはそれを利用した暗殺もありました。まあ、ちょっと回りくどいですけど。」

 例えば結核などの病気は毎日薬を飲み続けなければならず、一日忘れてしまえば今までのような効果を望めなくなる。それを中和剤によって疑似的に中断させてしまえば本当に命になりかねない。
 もちろん健常者には関係ない話だが、毒味役の目を掻い潜るという点ではそれすら利点となる。

「似たようなものとして活性剤がありますね。あちらも単体だと意味がありませんが、中和剤とは反対に薬や道具の効果を増幅させます。」
「良薬も過ぎれば毒になるというからな。」

 スパイスをはじめ、人間は知らず知らず日常的に毒を摂取し、自己免疫によって処理をしている。大人は平気でも子供にとって毒になるのはこの自己免疫が完成していないからだ。活性剤と組み合わせれば大人の免疫も超える毒物となりかねない。もっとも死に至るほどでなく、せいぜい腹を壊すレベルがほとんどだが。そもそも致死量を摂取するほど食べるのは防衛本能も相まって難しい。

「中和剤や活性剤を使用するときは副作用に注意する必要があるんですよね。解毒剤も毒を以て毒を制すものがありますし……。」

 治療のつもりがとどめになるなど笑い話にもならない。










Episode 05
※錬金術製の鍵について
 基本的なことなら一通り網羅しているメルフィだが、それ以上となると当然得意不得意がある。疑似蘇生薬や魔法武器は彼女の専門外だ。

「なら反対に貴方の得意とするのは何でしょうか。」
「強いて言うなら鍵、ですかね。師匠も鍵屋をしていたので。」

 彼女の元居た世界において、鍵に求められる技術レベルはこの世界のものより高い。というのも万物を分解し、再構築する錬金術は、せっかくかけた鍵を破壊し無力化させてしまうだ。錬金術は全員が全員学んだからと言って習得できる技術ではないが、錬金術士の数は決して少なくない。当然容易に破壊されぬよう結界などの特殊対策を求められる。

「物理的なもの以外にも記憶封じの鍵、リドル先輩のユニーク魔法に似た魔殺しの鍵、召喚術を再現する銀の鍵などがありますね。門とセットでつくれば、扉を介していつでも特定の場所に戻れる転移の鍵もありますよ。」

 ちなみに転移の鍵についてはユウに簡易版どこでもドアと評されたが、あいにく彼女は日本のアニメ文化など知る由もない。

「もしやその転移の鍵をオンボロ寮にも……?」
「まさか。便利な反面、盗まれたりしたら面倒ですからね。」

 ただでさえナイトレイブンカレッジは治安がよろしくない。オンボロ寮に盗まれるようなものがないとはいえ、不法侵入されるのは女子生徒として不安がある。

「鍵が盗まれても門を破壊すればいいだけの話ですが、それも手間ですしね。基本的な活動範囲は学内に限られてますし。」
「そうですねぇ。監督生君のうっかり……、万が一を考えればそれが賢明でしょう。」

 遠方の採取地に出かけたときならともかく、学生の日常生活にはさほど必要ないものだ。















Episode 06
※錬金術士の同性愛事情。生々しい。
 ストレス発散目的に薔薇が咲き誇る妄想を語ったユウは、ふと気になっていたことをメルフィに尋ねた。

「メルフィの故郷では同性婚も認められているんだよね?」
「共和国は錬金術士が多いからね。その気になれば魔術より簡単に性別を変えられるし、同性のままでも子供も作れる。」

 同性愛を認めるか否かで一番の論点となるのはやはり子孫繁栄だ。その問題を解決できたのはやはり大きい。純粋な異性婚にくらべ妊娠率は低いが、それだってやりようはいくらでもある。

「おかげで共和国ではナンパをするなって評判だけど。」
「それはつまり……?」
「可愛い女の子を襲ったつもりが、自分が妊娠してましたっていう事件がある。」
「悲惨。」

 正直それについては自業自得であるが、同性の友人が実は異性だったというこもある。相手の性別を問わず、二人きりになるようなときは多少の注意が必要だ。

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