外伝/True route

※裏ボス系夢主だ、気を付けろ!ダイジェスト不穏展開。

 メルフィが元の世界に帰りたがっており、その手段を模索し続けていることは周知の事実だ。飽きることなく、さりとて自棄を起こすことなく、もくもくと調べる姿に友人達はよくもまあ飽きないものであると感心半分呆れ半分だった。例え一度世界線を越えた事実があっても、もう一度世界の境界線を越えるなんて夢物語を真剣に目指す様は滑稽だ。
 しかしここは自己中心主義の人間が集まるナイトレイブンカレッジ、自分に利も害もないなら周囲もわざわざそれを指摘しようとしなかった。つまるところ彼女に気を配るほどの関心が彼らにはなかったわけだ。
 だって、彼女は帰りたいという割に常に冷静だったから。

「最近メルフィの様子がちょっと変なんだよねえ。」
「はあ?あいつが?」
「別に今朝もいつも通りに見えたが。」

 そんな彼女の違和感にユウが気が付いたのは自身もまた様々な意味でこの学園のイレギュラーな存在だからだろう。
 休憩中の1年A組の教室でエースとデュースに相談するが、2人は何のことだと首を傾げる。そんな彼らをみてグリムはそれ見たことかと、ユウの気のせいだと訴える。ちなみにメルフィ本人はD組なので現在は別の教室にいる。

「確かに話しているときはいつも通りなんだよ。でもふとした瞬間に見せる表情が、こう、まるでハリボテめいてるっていうか。」
「ハリボテ?先輩たちほどじゃないけど、あいつだって営業スマイルを浮かべることぐらいあるっしょ。」
「いや、愛想笑いともちょっと違って。なんと言えばいいのかなぁ……。」

 エースの指摘にそうじゃないのだとユウは首を横に振る。あれはナイトレイブンカレッジ生によくある人を騙すための表情ではない。それなら不安や弱さを隠す強がりかというと、それもまた違うような気がした。

「まるで誰かがメルフィという人間を演じているみたいで。」
「ほう、今の彼女がまるで偽物みたいだというか。」
「ふなぁ!?お前いつのまに!?」

 突如窓から顔を覗かせたその人物にグリムは思わず叫び、グリム程ではないが他の3人も驚いて目を丸くする。

「リリア先輩、どうしてここに。」
「なに、移動教室でたまたま通りかかってな。それでお主、先ほどいってたことはまことか?」

 デュースの質問に大したことではないとリリアは返し、それより確認したいとユウに問いかける。

「ええっと、あくまで私の直感に過ぎないんですし、何か証拠があるわけじゃ……。」
「なるほど。しかし直感というのも案外馬鹿には出来ぬものじゃぞ?」

 特にオンボロ寮の監督生の直感となれば。





 メルフィが闇の鏡に選ばれて約1年経ち、見知らぬ世界での学園生活にもすっかり慣れてしまったのは本当だ。人間だれしも適応能力はあるものだし、癖だらけとはいえ友人も出来て、学園長も生活支援をしてくれている。それにオンボロ寮にはユウとグリム達がいたし、彼女達はまるでこの世界における家族のような存在だ。そのおかげでメルフィは故郷から切り離されても孤独を感じることはなかった。
 さりとてこのまま元の世界に戻れなくてもいいやと思えるほど、楽観的思考を持ち合わせていないのも事実である。将来のことを考えればやはり不安はあるし、帰郷願望はもはや本能的なものだ。だからこそ彼女は世界を飛び越える術を研究し続け、その一環として"銀の鍵"を作り上げた。
 "銀の鍵"。召喚術を再現する魔法道具だが、召喚術はそれだけで成り立つものではない。術者の体質によって召喚可能なものは違うし、ツイステッドワンダーランドと彼女の元いた世界では地の条件からして異なっていた。そもそも鍵だって最適材料が手に入らないから試行錯誤のうえなんとか完成したものなのだ。本当に成功しているのか怪しいし、使ってみないことには何がおこるのか分からないのが本当だ。

「よしっ。」

 ユウはアルバイトで、グリムは気まぐれ散歩で、自分1人しかいないオンボロ寮でメルフィは意を決す。向かい合うのは何の変哲もない姿見で、彼女は銀の鍵を鏡面に差し込んだ。




 それから幾日経ったころ。

「貴方は一体誰なんですか。」

 ナイトレイブンカレッジの中庭でユウはメルフィの姿をした誰かに問いかける。彼女だけではない。ユウの肩にのったグリムも、他の生徒達も彼女の一挙一動を見逃さぬように対峙する。
 対するメルフィは先ほどまで揃いもそろって詰めよってくる友人達に戸惑っていたのが嘘のように黙りこみ、俯いた顔からは表情が伺えない。

「ふふ、うふふふ、私が誰なのかって?おかしなことをおっしゃるのねぇ。」

 その言葉共に面を上げた彼女はユウ達の知るメルフィなどではなかった。普段の彼女からは想像できぬ艶やかな女性の振る舞いに、渦巻く魔力。それはまるでオーバーブロッドを彷彿させるもので。

「この依代が私の魔力に馴染むまでもう少し遊んであげようと思っていたのに、貴方ったら気が付いてしまうんだもの。ええ、ええ、でもそれも楽しかったわ。私がわざとばら撒いたヒントは役にたったかしら?」

 例えばオンボロ寮にあったわざとらしく破り捨てた資料に、実技授業のあとでも濁ってない魔石、図書館に置かれた存在しないはずの魔導書。どれもさりげなく、されど意識すれば簡単に見つかるものだった。

「その先が深淵とも知らずにね。」

 太陽が闇に飲み込まれ、女の形をした影は巨大化し、日差し代わりに学園を照らすは深紅の月明り。

「せっかくだもの、今度は趣向を変えて遊びましょう?」

 野次馬をしていた有象無象の生徒たちはその微笑みだけで、宙の狂気に耐え切れず気を失った。




 嘘をつくとき厄介なのは男より女の方だという。本人も嘘を真実だと思い込んでしまうからだ。
 メルフィがこの世界に来てからも冷静さを保ち続けられたのはユウのおかげだ。それは間違いではない。魔法も錬金術も使えない、か弱い少女。自分と似たような境遇でありながら、自分と違って非力な彼女をメルフィは瞬時に守るべき存在と認識した。彼女を守るためにも自分がしっかりしなければならないと無意識に自身を鼓舞したのである。
 しかし本人ですら本心を騙し隠しても、本音が消え去るわけではない。永遠に帰れないのではないのかという不安、恐怖、焦燥感、奥底にしまい込まれた負の感情はじわじわと彼女を蝕んでいった。
 忘れがちだが、彼女だってまだ10代半ばの少女に過ぎないのである。いくら年の割に大人びていても現実を受け止めきれぬ甘さがあった。それを吐き出せるほどの強さが彼女にはなかった。
 だからこそメルフィは深淵に付け込まれたのである。

「あら、逃げるの?ええ、ええ、それもいいでしょう。もう一度遊んでくれるきになったら、またいらっしゃい。私はここで待ってるわ。……この依代の全てが私のものになるまでは。」

 影の鏡から這い出る名状しがたき怪物達に、分が悪いと監督生たちは一時撤退する。その後ろ姿に少女の形をした化け物は蠱惑的に笑う。
 メルフィの意識は闇に沈んだままだ。

深淵へようこそ


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