本編/ラギー

 魔法の鏡にも指摘された通り、メルフィにも魔力はあるが魔法士となるにはその量があまりに少なすぎた。周囲の生徒と同じように魔術を行使すれば、それこそ魔力枯渇であっというまに倒れてしまう。ただの喧嘩なら物理で叩き潰せばいいだけの話だが、授業ともなればそうもいかない。
 そこでメルフィに特別認められたのは、実技であれば錬金術で作成したものを使用しても良いというものだった。

「しっかし、魔法石を使い捨てにするなんてあんたも大概贅沢なことするッスね。」
「正確には魔石を、ですけど。」

 真っ黒になった石をぽいぽいと捨てるメルフィに呆れた目をむけるラギーに彼女は仕方ないだろうと返す。
 彼女が言う通り、魔石は魔法石とは似て異なる物質だ。高純度のエネルギーを固体化させたそれは、メルフィの世界の魔術師が自分の魔力を補うときにも使用されていた。使用すればする程純度が下がり濁っていく魔石は、魔法石と違って休息をとったからといって元の色に戻るわけでなく、使い捨ての消耗品だ。自前の魔力が少ないメルフィは頼りきりになってしまうため、あっという間に駄目になってしまう。

「いくら自分で作れるたって、その材料もただではないでしょ。」
「ええ、その通りです。普段使いのは質にこだわらないようにしてるんですけどね……。」

 そこに存在する限り万物に元素はあり、分解と結合を繰り返すことで高純度のマナ(あるいはそれに類するもの)を抽出することは可能だ。しかし材料の質が悪ければ難易度は高くなるし、完成したとしても手間暇かけた割には完成する量は少ない。時間コストを考えるればそこそこで妥協しなければならなかった。
 元の世界にいたころは自ら採取に出かけて質の良い材料を集めていたが、現在は外出許可が必要なため気軽にいくことができない。

「たまにルーク先輩と一緒に狩りに行くんですが、毎回毎回彼を巻き込むわけにもいきませんし。だからといって私1人じゃ外出許可が下りなくて……。」
「前にあんたがルークさんと罠についてあれやこれやと盛り上がっていたのはそういうことですか。」
「植物に限らず動物も立派な錬金術材料ですから。」

 数日前、思わず獣人たちが警戒心をいだくほど盛り上がっていた2人の姿をラギーは思い出す。ルークの知恵にメルフィの技術が合わさるなど、どんな悪夢になるのか分かったもんじゃない。

「間違ってもオレらをその錬金術とやらの材料にしないでくださいよ。」
「同意もないのに実験台にするわけないじゃないですか。」

 それはつまり、本人の了承さえあればやらかしかねないということなのだろうか。

宝石の欠片


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