本編/リリア
問題児の多いナイトレイブンカレッジだが、名門学校と呼ばれるだけあって図書室の蔵書はかなりのものだ。この世界の錬金術についての書物も多く、そのままメルフィの錬金術に流用することできないが参考になることは多い。この世界にきてからも不自由ない言語能力には感謝するばかりだ。(ただ書くとなると少々手間取るのだが)
「銀の鍵とやらを作ろうとしているようじゃな。」 「……リリア先輩。」
そんな彼女の肩をぽんと叩いたのはリリアだった。蝙蝠を引連れた彼はメルフィも知っている人物だが、言葉を交わしたことはそう多くない。一見愛らしい容姿をしているが、夜に生きるものの特有の肌の白さやその気配からして人ではないのだろう。彼女の故郷よろしく異種族入り混じるこの学園では今更なのだけど。
「なに、風の噂でな。」 「ディアソムニアの人の耳に届くほどですか。」
同じクラスにリリアを慕っているセベクがいるが、彼とも特別親しいわけではない。そもそも彼は口を開けば若様のことばかりであり、錬金術について相談する余地などあるはずもなく、ツノ太郎もといマレウスにだって今のところまだ話していないのだ。
「そう警戒せずともよい、わしもちと興味が湧いただけじゃしの。」 「別に警戒してるわけじゃ……、ただ少し気になっただけです。」
単純な興味、その言葉に嘘はないのだろう。この学園に通うことになってから好奇の目に晒されることは慣れてしまった。それに彼ほどの魔法士がわざわざメルフィの調べものを邪魔をする理由が見当たらない。
「そうだ、リリア先輩は何か知りません?こう、世界を渡る方法とか。」 「ふーむ、そうじゃのう……。」
日頃から普通の人間より遥かに長い時を生きたかのように語る彼のことだ。書物に残らぬことも知っているかもしれないとメルフィは尋ねる。
「そういえば昔、お主らのように異世界から来たという人間と話したこともあったな。」 「本当ですか!」
これは貴重な情報源だとメルフィは目を輝かせ、リリアの話に喰いつく。それでも話したことがあるなら、その人物がどういう経緯でこの世界にやってきて、元の世界に戻れたか否か知っているかもしれない。例え元の世界に戻れなかったとしても、前者の情報だけでも一つの参考になるはずだ。 しかしメルフィの期待を裏切るかのようにリリアは頭を振る。
「しかし生憎それも随分昔のことでな、もうほとんど覚えとらんよ。」 「ええ、ぬか喜びしちゃったじゃないですか……。」
なんせその人物と出会ったのは一度きりで、異世界人といっても妖精族のリリアとしては過ぎ去った有象無象の人間の1人に過ぎない。今となっては顔も思い出せないのだから、彼女の求める情報をリリアは与えることができなかった。
「だがもし一つ言うとするならば……、うっかり深淵を覗かぬようにな。」 「深淵……?」 「無知は罪なりと人は言うが、知ることもまた罪となりうるということじゃよ。」
くふふと笑うリリアの猫のような瞳はぞっとする冷たさをはなっていた。
探究心は人の罪 ← . |