本編/ケイト
ツイステッドワンダーランドでもっとも有名なSNSといえばマジカメだ。元の世界でいうインスタやツイッターみたいなものかと1人納得しているユウの隣で、メルフィは首を傾げていた。
「そもそもスマホが何なのかよく分からないんだけど。」
その時、ハーツラビュルに激震が走った。
メルフィが元居た世界にも科学は存在していたが、この世界や現代日本ほど発達していなかった。錬金術でも通信機は作れるが、職人技と言っても遜色ないそれは大量生産に適していない。 その点スマホは一人一台ともいえるほど広く浸透していると聞かされたときは、メルフィも思わず感嘆の声をあげた。くやしいが消費文明における技術力の高さはあっぱれとしかいいようがない。 ともかくスマホを持っていることを前提とした社会では、逆にもっていないと何かと不便である。連絡手段ぐらいくれと学園長をおど……お願いし、ユウとメルフィもこの世界のスマホを無事に手に入れた。
「ユウちゃんから聞いたよ、メルフィちゃんもスマホ持つようになったんだって?」 「ケイト先輩。」
そんな彼女に声をかけてきたのは熱心にメルフィにスマホを進めてきた先輩だった。スマホを持っていないだけでも珍しいのに、まさかそれ自体を知らない人がいるとはケイトは思いもしなかったのだ。冷静に考えれば彼女の故郷はこことは文化も文明も違うのでありえぬ話ではないのだが。
「どう、使い方分かる?」 「ユウが教えてくれたので、簡単なことなら。」 「スマホでできることは沢山あるからね。何か気になることがあったらオレにも聞きなよ。せっかくあるものを活用できないのはもったいないからさ。」
電話やメールの仕方など教わったものの、機械に馴染みのないメルフィはそれだけでも覚えるのが大変だ。他の人と同じぐらい扱えるようになるには少なくとも一か月はかかるだろう。いざというとき頼れる人は複数いるにこしたことはない。
「あ、それなら連絡先教えてもらってもいいですか。」 「おっと、いきなり大胆なこというじゃん。けーくんのこと、そんなに気になる?」 「気になるっていうより、ハーツラビュルにお邪魔することはよくあるので。」
ニヤニヤとからかうケイトにメルフィは何言ってんだこいつと言いたげな顔をする。スマホに馴染みのない彼女は、連絡先を交換するときのいろんな意味を知らないのだ。メルフィがケイトの連絡先を尋ねたのも、なんでもない日のお茶会に誘われたときのことを考えただけであり色恋のいの字もない。
「うーん……、そう来たかあ。オレだからまだいいけど、不用意に連絡先を交換しないようにね。」 「はぁ……、わかりました……?」
個人情報の扱いには気を付けるよう注意するケイトにメルフィは戸惑いながらも頷くのだった。
無知無警戒 ← . |