本編/トレイン

 メルフィの元居た世界は人間界・幻獣界・精霊界の3つの次元で構成されており、召喚術によって別次元の世界を呼び出すことができた。

「銀の鍵、か?」
「はい、私の師匠も作っていたものなんですけど。」

 名前の響きだけなら何の特別さも感じられないそれにトレインが首を傾げれば、メルフィはそれがどんなものなのか説明を続ける。
 錬金術はもともと魔力が少ないものにも魔術が扱えるようにするため発展したものであり、銀の鍵は召喚術を再現する魔法道具だ。使用回数に限りはあれど、魔力の消費なしで異界の門を開き、精霊や幻獣の力を借りることができる。

「これを応用すれば元の世界に戻ることができるんじゃないかと考えたんです。」

 ただし銀の鍵を作るには当然高度な技術を必要とし、その材料も貴重なものが多い。"銀"の鍵のくせにオリハルコンが必要とはこれいかに。
 今ここでは一学生にすぎない彼女に材料を取り寄せるだけの資金があるはずもなく、そもそも最適材料がこの世界に存在しない可能性も高かった。なんせ世界が異なれば世界を構成する元素も異なり、見てくれと名前が同じでも全く同一のものは存在しないからだ。

「それならいっそのことこの世界の似たようなものを手に入れて、それに手を加えるのが手っ取り早いんじゃないかなって。」
「着眼点は悪くないな。」

 彼女なりの考えにトレインはなるほどと頷く。しかしそう簡単にことは進まないのが現実だ。

「この世界にも召喚術はあるが無機物ならともかく、生命体となると術者の高い技量が求められる。それが異世界の存在となると、グレートセブン相当となるだろう。」

 そうでもなければ学園もユウやメルフィのようなイレギュラーに驚きやしなかった。

「それを可能とする魔法道具があるとするならば、国宝級の扱いをされているだろうな。」

 異世界から呼び出した存在がこの世界にとって安全なものとは限らない。不用意に人が触れぬよう厳重に管理されており、容易にレプリカの作成もできないようしているはずである。

「やっぱりそういうものですか。それでも一度調べてみます。知識はあるにこしたことはありませんから。」

 駄目元とはいえ、やれることはやらずに諦めるのは愚の骨頂だ。そう息巻くメルフィにトレインの腕に抱かれたルチウスが鳴き声をあげるのだった。

銀の鍵


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