本編/1-A組
メルフィの錬金術は触媒なしに物質やエネルギーを元素・原子などの極小単位に分解し、再構築する摩訶不思議な技術だ。よって様々な工夫を凝らせば腐ったお肉を新鮮お肉にしてみたり、雑草をホウレンソウにしてみたりと現代科学で考えればわけわからん所業ができた。メルフィのもといた世界では錬金術は別名魔法科学と呼ばれていたので、読者の現実的常識が通用しなくて当然だ。ちちんぷいぷいで炭からダイヤモンドが作れるようなものだと思ってほしい。 ともかくサバイバルするなら錬金術士は連れていけと言われるぐらい、錬金術は私生活でも役立つ技術であった。もっとも普通にお店に買えるならそちらの方が圧倒的にコストパフォーマンスがいいけれど。 今回はそれを活用しユウの元居た世界のお菓子を再現したのである。
「これがひよこ饅頭……!」
そのおすそ分けを受け取ったデュースは目をキラキラと輝かせていた。理由は知らぬがヒヨコ好きの彼らしい(無精卵からヒヨコが生まれると思っていたときは驚いたが)
「食べるのをためらう見た目だな。」 「なんだなんだ〜?喰わねえならオレ様が喰ってやるぞ。」 「グリムの分はもう食べたでしょ!」 「ぶなっ!?」
そんなデュースの饅頭を狙うのはグリムで、監督生であるユウがその首根っこをひっ捕まえる。この食い意地のはった相棒は目を離した隙に盗み食い拾い食いをするから困ったものだ。
「しかしお得意の錬金術で作ったとはいえ、食べたこともないやつをよく作れるよな。ユウとメルフィの故郷は違うんだろ?」 「魔法道具と違ってただのお菓子だからね。特別な材料は必要ないから、ユウの記憶と照らし合わせながら作ったの。」
グリムにとられまいとさっさと食べたエースの指摘にメルフィがこたえる。 それぞれ異なる世界からこの学園にやってきたメルフィとユウは食文化も異なる点があり、メルフィにとっても饅頭は馴染みのない食べ物だ。だが話を聞いているうちに興味がわき、ああでもないこうでもないと試作を繰り返して再現したのである。ユウも饅頭のレシピまで知っているわけではないので少々手間取ったが、幸い餡子はあんぱんを作ってる食堂で分けて貰えたし、普段しない研究内容は丁度いい気分転換になった。
「元の世界に戻るための道具を作るよりはずっと簡単だしね。」
なんせ本命のアイテムを作るには時間も知識も、材料も足りないのだから。諦めはしないが、進まない研究に嫌気がさすのも当然だ。
懐かしの味 ← . |