天文世界 外伝03
※W時代でW主と錬金術師の話。
こことは異なるどこかの世界では、魔術・科学・錬金術の3つの技術が栄えていた。その一つ錬金術はあらゆるエネルギーや物質を、マナと呼ばれる最小単位に分解し再構築する技術である。純度の高いマナを凝縮した魔石は魔術師の間でも重宝されていた。 そしてルチルも見習いとはいえ錬金術師の一人であり、とある魔術学校に依頼品を届けに来ていた。 さて読者の皆様はここでもう御察しのことだろう。何事もないのが一番だが、事件がなければ物語は始まらない。それはミステリーに限った話ではない。 運悪く生徒達の魔術の共鳴暴走に巻き込まれてしまったわけである。 強い光に飲み込まれ浮遊感に襲われたと思ったら、気が付けば海の上。泳ぎの心得はあるものの、あまりの超展開にパニックをおこした彼女は溺れかけてしまう。そんな彼女を助けたのはラズロという少年だった。
「あの時のルチルは本当にすごかったなあ。」 「やめて、思い出さないで。あれは黒歴史だから。」
その時のことを思い出してからかうラズロに、ルチルは勘弁してと返す。しばしばこの少年はその当時のことを掘り返すが、彼女がパニックを起こすのも無理もなかった。 当時彼女を助けたラズロは何故彼女が溺れかける羽目になったのか尋ねたが、どうも話がかみ合わない。知らぬ地名に、異なる技術。ルチルは異世界に吹き飛ばされてしまったのである。 にわかに信じがたい話であるが、ラズロも強い光と爆発音と共に彼女から宙から落下する瞬間を目撃したのだ。錬金術なんて摩訶不思議な技術を見せつけられては否定しきれぬ話だった。それにラズロ自身も数奇な運命をたどっているのもあり、そういうものかと納得してしまったのである。 右も左も分からぬ彼女を放っておくこともできず、ラズロは共に来るかと手を差し伸べた。今思えば世界から追い出された彼女に、国を追い出された自分を重ねてしまったのだろう。 そしてその選択は間違っていなかった。今となってはルチルは連合軍にいなくてはならない存在だ。ほとんど船上で生活している連合軍にとって、水や食料は死活問題だ。その点海水を真水に、モンスターもおいしい食材に作り替える彼女の錬金術は非常に優秀である。軍の生命線ともいえよう。もっとも彼女に頼りすぎてはいざというときが困るので、陸地での準備はできるだけ万全にしているが。
「ルチルにとっては黒歴史でも、あの日君を見つけたのが僕でよかったって思ってるよ。」 「それは、まあ……。私もラズロに助けられてすごく感謝してるけど。」
もしあの日ルチルを見つけたのがラズロでなければ、今頃彼女は海の藻屑と化していたかもしれないし、拾ったのがろくでなしだったら人間らしい生活などおくれていなかっただろう。
「だけどそれを平然と言うラズロはやっぱりすごいと思うわ。」 「そういうルチルは顔真っ赤だね。」 「うるさい、この人たらし。」
聞きようには告白にもとれる言い方をするラズロに悪態突き、ルチルはぷいっと視線を逸らすのだった。
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