Patriot 54

 法王が事故で死んだという知らせはサザンビークにも届いていた。先代の葬儀もそこそこに、聖堂騎士団長が法王着任式の準備を進めているということも耳に入っている。

「マルチェロという男、どうもきな臭いな……。」

 本来法王が死亡した場合、半年間喪に服すのが通例だ。つい先日あった法王暗殺未遂事件といい、異様な速さの法王継承にクラビウス王も疑念を抱く。このまま放置しては教会が暴走し、サザンビークにとっても脅威となる可能性もありうる。

「ヨシュア、お前に特別任務を与える。事件の真相とマルチェロの真意を探ってくるのだ。」
「はっ!」

 王から極秘任務を与えられたヨシュアは城をしばらくあけることになる。




 エイト達が空も見えない地下牢に閉じ込められてもう一か月も経っていた。見張りの会話から法王が死んだという事実のみ知ったが、ここでは外の様子がさっぱりわからない。
 不安にくれる中、一日の終わりを示す見張り交代の時間がやってきた。

「何だお前。見慣れないやつだな。」
「あいつが体調崩したせいで、かわりに俺がくることになったんだよ。」

 しかし降りてきたのは今までと違い、仮面をつけた細身の男だった。黒いマントで分かりにくいが、エイト達にとって見覚えのある背格好である。

「お前みたいなひょろっこい奴が見張りが務まると思えねえけどな。」
「おいおい、見た目で判断するのはよくないぜ?……ラリホーマ。」

 最期の一言でガタイのいい見張りは崩れ落ちた。一瞬の出来事に黙って見ていたエイト達も息をのむ。

「今扉を開けますので、皆さんも準備してください。」
「ヨシュアさん!?どうして貴方がここに!?」

 仮面を外した予想外の助っ人にハイネが思わず叫ぶが、ヨシュアは説明はあとだと見張りから鍵を盗み取り扉をあける。

「トロデ王とゲルダさんが上でお待ちです。さあ、そちらの大司教も。」
「……いや、私はいい。」

 ヨシュアはニノ大司教に手を差し出したが、彼は首を横に振る。ここから脱走しても司祭の自分では今日から逃れきれぬし、己の冤罪が晴れるわけでもない。

「だからお前たちで真相を確かめ、私の無実も証明してきてくれ!」
「……分かりました。皆、行こう。」

 司教に託されたエイトは頷き、一道は大きな鳥かごに乗り込む。ヨシュアが笛を吹けば滑車は上に登り始めた。耳のいいゲルダそれを合図に上層にあるレバーを引いたのだ。

蜘蛛の糸
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