Patriot 40

 雷鳴の響く空の下、杖に乗っ取られたゼシカはハワード邸の庭にある噴水に現れた。

「せっかく守りを万全にしなさいと言ったのに随分無防備なのね。」
「黙れ!お前なんかにハワード様に指一本触れさせるものか!」

 魔女のような余裕を見せる彼女にチェルスが吠えるが、彼女はおかしなものを見るように笑う。

「あんな見せかけだけの男には端から用はないわ。私が狙っているのはかつて暗黒神ラプソーンを封印した七賢者の一人大呪術師クーパスの末裔。」

 ハイネが引っかかっていたことは正解だったようだ。ならば考えうる本命はあと一人しかいない。

「チェルス、貴方のことよ!」
「させるものですか!」

 チェルスに向かって放たれたメラゾーマを、ゼシカより一歩早く動いたハイネが防ぐ。あたりに爆発音が響き盾にひびが入る。彼女に続いてエイト達もチェルスとゼシカの間に立つ。

「うふふ、やっぱり貴方達もまだいたのね。いいわ、どうせ貴方たちとの戦いは避けられないって分かっていたもの。」

 正気ではないとはいえゼシカ達はかつての仲間たちに対しても、迷いなく杖を構える。ここからが正念場だ。




 相手は女一人とはいえ今のゼシカは杖によって異様な力を放っている。おまけにドルマゲスのときとは違ってエイト達は彼女を倒すことが目的ではない。こちらを殺しにかかっている相手に対し、致命傷を与えずに取り押さえるのは至難の業だ。
 それでもじわじわと追い詰められた彼女は膝はつき、杖の力を超える力を持つ人間がいるなど信じられないと怨色を浮かべる。

「……拉致が明かないわ。4人の賢者の魂をえた、この杖の本当の威力を見せてあげる。」

 ゼシカの体が再び宙に浮き、杖に魔力が集まりはじめる。まるで太陽のような不吉な輝きをもつそれを発動されたら、文字通り町ごと消し炭になりかねない。

「どけどけ!この不届きめ、わしの超強力な退魔の結界をくらうがいい!」

 絶体絶命だと思ったその瞬間、野次馬を突き飛ばしながらハワードが現れた。クラン・スピネルを使った魔術がようやく完成できたのだ。

「どりゃあああ!」

 その叫びとともに、ハワードから強い光が放たれる。只の人には何の害もないそれに当てられたゼシカの手から杖が離れ遠くへ飛ばされいく。それと同時に彼女からは先ほどのまでのまがまがさは消え去り、地面へ崩れ落ちる。
 ハワードの活躍により、ようやくゼシカは呪いの杖から解き放たれたのだ。

影武者と賢者
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