Patriot 17
ククールは見張りに眠り薬を盛って、エイト達の脱走の手助けをしにきてくれたのだ。拷問室にあるアイアンメイデンは隠し通路の入り口になっているようで、ククールに連れられエイト達は外を目指す。もちろん荷物はしっかりと回収済みだ。
「さっきはすまなかったな。指輪の件はああでもしないと俺が疑われるんでね。」
ここを追い出されたら居場所がなくなるんだと言うククールも、いろいろ訳ありらしい。
「しっかし分からねえ。なんでわざわざ自分で濡れ衣を着させておいて、助けにきたんだ。」 「生憎俺はここの連中から信用がないもんでね。あの場で俺がかばったところで逆効果さ。」
ヤンガスの疑念にククールは応える。ククールはマルチェロに目の仇にされており、周囲もマルチェロに同調するばかり。誰もククールの言葉など信用しなっただろう。だからククールはエイト達に一度牢屋に入ってもらったのである。
「それに俺にはあんたらが院長の命を助けてくれたことくらい分かってる。あんたらが尋問室に連れてこられるちょっと前に、修道院の中からあの禍々しい気配が消えたからな。」
恩人を見捨てるほど薄情するじゃないさとククールは言った。
隠し通路は修道院外れにある馬小屋へつながっていた。脱走できたとはいえ修道院には相変わらず疑われている以上、この場からは早く離れた方がいいだろう。いろいろあったがククールともここでお別れだ。そう思った矢先である。
「修道院が、燃えてる……?まさか!オディロ院長が危ない!」
闇夜を照らすがごとく、修道院の小島にかかる橋が激しく燃え上がっていたのだ。その惨状に駆けだすククールの背中をエイト達も追いかける。 院長の部屋を警備している兵士を攻撃したのはおそらくドルマゲスであり、彼の目的はきっとオディロ院長の命だ。マルチェロ含む騎士団がエイト達を犯人だと決めつけ、犯人は捕まったと油断している隙を見逃すはずがない。 修道院の周りには多くの野次馬が集まっており、聖堂騎士が彼らを入れまいとしている。その人混みを潜り抜け辿り着いた聖堂の中には何人ものの死体が転がっていた。 禍々しい気配をククールだけでなく、エイト達も感じながらオディロ院長がいる二階にのぼると奴はそこにいた。
「兄貴!」
オディロ院長を庇うように立っていたマルチェロがドルマゲスの黒魔術で飛ばされる。ククールが駆け寄るも、一瞬で彼も魔術で壁にとばされる。 それだけで二人はボロボロだというのに、院長を守らんと立ち上がろうとする。それだけ院長が修道院にとって欠かせない存在だということだ。
「よい、マルチェロ、ククール。私は神に捧げた身。神の御心ならば、私はいつでも死のう。だが罪深き子よ。それが神の御心に反するならばお前が何しようと私は死なん!」
だが院長はこれ以上彼らに無理をさせまいと、一人ドルマゲスの前へでた。 ドルマゲスはそんな院長をせせら笑い、院長にふわりふわりとにじり寄る。
「待て待て待てーい!久しぶりやな、ドルマゲス!」 「これはこれは、トロデ王ではありませんか。随分と変わり果てた御姿で。」
だがそれを見過ごせるはずもないとエイトとハイネが飛び出そうとすると、突如トロデ王が二人を突き飛ばしながらドルマゲスの前に躍り出た。ドルマゲスは皮肉たっぷりに笑いながら杖を掲げ、強い光を放ち始める。何を仕出かすつもりなのか分からないが、あのまま魔術を発動されたら録でもないことになるとその場にいる全員が理解していた。
グサッ
守るべきその人が、杖に貫かれた。
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