Cantando! 01

 春というにはまだ早く、こたつがなかななか片づけられない3学期半ばのことである。

「はあ、プロデュース科に。」

 職員室の奥にある面談室へ呼ばれた女子生徒はぽかんとした顔で教師の話に相槌をした。
 女子生徒こと吉野レイナは多少変わった一面をも持ちつつも、まだ普通の範疇に入る人物だ。とりたてて成績がいいわけでも、目立って素行が悪いわけでもない。そんな彼女が職員室に呼び出されたときは何事かと身構えていたが、まさか普通科からプロデュース科に移動しないかというものだとは思いもしなかった。
 なんでも最近業績が停滞気味のアイドル科に何らかのコテいれをしようとプロデュース科を併設することになったらしい。それでレイナには作曲コースのモデル生になってほしいとのことだった。

「それは分かりましたけど、なんで私が?音楽科でも軽音部でもないのに。」
「このアカウント、あなたのでしょう。」
「なんで先生しってるんデスカ……。」
「そりゃあ昼休憩中にあんなに話していたら。」

 教師が取り出したタブレットには動画サイトのとあるアカウントがうつっている。歌っているのは人間ではないが、オリジナルからアレンジなど色々な曲を投稿している。中には夢ノ咲のとあるユニットの曲もある。
 確かにレイナはこのことを先生に話したことはないが、仲のいい友達とは学校でもしばしば話している。それを誰かが横目で聞いたのだろう。まさかそれで特定されるまで調べられるとは思わなかったが。顔どころか声もさらしていないのによく調べたものである。

「もちろんすぐに決めろとは言いません。これは進路にもかかわることですから。」
「でも2年からってことは早い方がいいんですよね。」
「ええ、せめて春休みに入る前には。」
「長くて一か月かよ……。わかりました、親と話し合います。」


Cantando!

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