浮遊庭園/カルデア初期
レイナは根からのオタクである。ゲームやラノベによくある冒険物も好きだし憧れだって抱いたこともある。だからってまさか自分が勇者一行の真似事をするなんて思いもしなかった。 きっかけは従姉妹の立香とうけた献血だ。そしたらレイシフト適正がなんだのと、拉致されるように連れてこられたのが吹雪に覆われるカルデアという施設だった。カルデアに来てからも若い所長に怒鳴られるは、足長叔父さんは爆破テロをおこすはさんざんである。そしてあれやこれやといううちにレイナと立香の二人は人類最後のマスターとなったのだ。 もっとも肩書をもらったところで神様から特別な力を授かった二人ではない。魔術のまの字も知らない二人はその点全くのポンコツであった。
「しっかし嬢ちゃん本当に素質ねえな。」 「キャスニキ、うっさい。」
キャスニキこと青いローブを羽織ったクーフーリンがしみじみといえば、レイナはふて腐れた様子で返す。現在比較的簡単なルーン魔術を学んでいるものの、結果が振るわないのだ。石に書かれた文字はただミミズが張っているだけのように佇んでいる。 レイナ本人はもちろんのこと、冬木からの付き合いであるクーフーリンも彼女に素質がないのはよくわかっている。それでもこうして教えているのは彼女がいざというとき身を守る術を持ちたいと頼んだからだ。礼装なしでもガンドを打てるようにはなりたいようだが、先は長そうである。キャスターではなくランサーで召喚されたかったクーフーリンとしては少々複雑であるものの、頼られるのは嫌いではない。しばしば呆れつつも根気良く付き合っていった。
「レイナ先輩。」 「あ、マシュ。どうかした?」
そんな二人のところにやってきたのはマシュだった。デミサーヴァントである彼女と直接契約しているのは立香だが、レイナのことも先輩として慕ってくれている。
「立香先輩が探していましたよ。」 「立香が?何か約束していたっけ。」 「新しくきたサーヴァント達のことでもう一度話し合いたいとか……。」
マシュから聞いた言伝にレイナはなるほどとうなずく。つい最近のレイシフトで得た縁を頼りに増えた仲間に必要なシミュレーションスケジュールの練り直しだろう。
「ありがとう、マシュ。キャスニキ、今日はこれぐらいにしておくよ。」 「へいへい、立香をあんま待たせんなよ。」 「分かってるって。」
いちいちうるさいなあと小言でぼやくそれは反抗期のそれだ。大人の余裕をみせるクーフーリンは肩をすくめはしても、怒りはせずその背中を見送った。
浮遊庭園
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