無明草子04

 ところ戻って道場。出陣していないときの日々の鍛錬は基本的にここでおこなわれている。

「もうすぐお昼時です。今日はこのあたりにいたしましょうか。」

 まだ人の身に慣れていないユウトと古参の鳴狐の実力は歴然だ。お供の狐の合図で手合わせを終えたときには余裕そうな鳴狐に対し、ユウトは肩で息をしていた。

「いや、いい。自分で立てる。」

 そんなユウトに鳴狐は手を差し出したが、ユウトは首を横に振って立ち上がった。疲れているのは確かだが意地なのだろう。
 実際にユウトと手合わせをして鳴狐がうけた印象は短刀のなかでは脇差よりの戦法をとるということだ。短刀特有の身軽さはもちろんあるが、ユウトは斬りつけるというより突く攻撃が多い。連続突で相手をおいつめるといったかんじだ。ただ反対に力は短刀のなかでもとりわけ低めのようで、相手の攻撃を受け止めるというのは苦手なようだ。
 ともかく鳴狐はこのあと今回の手合わせで感じたことを審神者に報告するよう言われている。

「私めどもはこのあと主の元にいかなければいけません。ユウト殿はその間に汗をふいたり着替えたりするとよいですよ!」
「風邪、ひくからね。」

 刀剣男士は基本的に風邪をひくことはないが、審神者の霊力が不安定な場合や呼び出されたばかりのころは風邪をひくことがある。それを加州から聞いていたユウトはおとなしくお供の狐と鳴狐の言葉に頷いた。






 審神者の中では古参である彼女の本丸空間は広く、刀剣男士一人一人に自室を与えられている。本丸に来たばかりのユウトの部屋は布団一式だけで殺風景だ。お供の狐に一度着替えたほうがいいといわれたものの、ユウトが持っている服は今着ている戦装束のみである。

「ユウトいるか?ちょっと渡したいものがある。」

 部屋の外から聞こえた声にユウトは居留守が頭によぎったがおとなしく答える。

「いるけど、何?」
「そんな嫌そうな態度するなって。着替えとタオルを貸してやろうと思ってさ。背丈は俺とそう変わらねえだろ?」

 練度1のユウトの気配に同じ短刀の後藤が気づかないわけがないからだ。

「タオルだけでいい。着替えなら午後から買いにいくことになっているからな。」
「それなら尚更着替えろって。汗くさい恰好で万屋にいって大将に恥をかかせるきか?」

 主君の名前をだされるとユウトも刀剣男士として引き下がるしかない。それに他から借りるといってもユウトはこの本丸に特別仲のいい刀剣男士はいないのだから。
 後藤から借りた服はユウトにとって少し袖が余るぐらいで動きに支障がない大きさだった。

「お、ぴったりだな。そろそろ昼もできてるだろうし行こうぜ。」
「いや、少し段取りしていくから先にいっといてくれ。場所は分かる。」
「段取りも何もお前ものがないし、着替え終わっただろ。ほかの奴らも待つだろうからさっさといくぞ。」

 やんわりと一緒にいきたくないとユウトは断ったが、後藤はユウトの腕をとって歩き出す。

「お前が俺たちに苦手意識を持ってるのは分かったが、それが同じ主君に仕える仲間をさける理由にはならねえからな。」
「わかったから手をはなしてくれ。」

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