「設楽先輩!」

放課後、下駄箱へと続く階段を降りていると聞き慣れた声に足を止めた。上を見上げるとおまえがいてパタパタ駆け足しながらこちらに近づいてきた。
そんなに急いで来なくても俺は逃げたりしないのに。だけど、そんな姿が可愛くて少し口元が緩む。

「あぁ、おまえか」
「今日よかったら一緒に帰…きゃっ!」

そういいかけて段差で足を滑らせたおまえにすかさず手を伸ばす。なんとかおまえを受け止めたが、一緒にバランスを崩し床へと崩れ落ちた。
ほらみろ。そんなに急ぐから危ないじゃないか。俺がいなかったらどうなっていたことか…。いや、文句を言うのは安否を確認してからだ。

「大丈夫か?……っ!」

右の指先がズキッと痛む。指先を見るとおまえを受け止めた時に人差し指から薬指指まで鮮やかな血を流していた。一瞬、ピアノに支障が出るか気にはなったがすぐにおまえの膝が目に入る。両膝には内出血したのか痛々しく赤紫色に腫れ上がっていて、コイツも痛さに顔を歪めていた。

「だ…大丈夫で、す…」
「…膝、痛いのか?」
「……!」

膝に触れようと手を近付けると、俺の怪我に気がついたおまえが慌てて右手を掴んだ。

「わたしのことより設楽先輩の指が…!」
「…気にするな」
「で、でも…」
「うるさい!俺の指よりおまえの方が大事なんだよ!」

オレの出した大きな声にビクリと小さな肩を揺らした。全くおまえは何処までお人よしなんだ。おまえにもしものことがあったらオレは…

「…じっとしてろ」
「えっ?ちょっ…!設楽先輩…!?」

怪我をした指にハンカチを巻き付け、オレはその小さな身体を両手に抱き抱えて保健室まで駆け出した。
女を抱き抱えるなんて初めてで、まさか自分がこんな大胆なことをするなんて正直信じられない。

「おっ…降ろして下さい!」
「いいから黙ってろ!」

暴れるおまえを強く押さえ付けると観念したのかピタリと動きが止まる。
廊下をすれ違う生徒が何事かとこちらを指差して何やら騒いでいたが、そんなことよりおまえが心配でなりふり構わず廊下を走り抜けた。

ようやく保健室の前に到着して両手で抱えていたおまえを降ろす。
身体中の水分がなくるんじゃないかと思うくらい汗だくで、肌に纏わり付くブラウスが気持ち悪い。
ハァハァと大きく肩で息をしている俺を見て心配そうにしているおまえが視界に入った。

「だっ、大丈夫ですか…?」
「い、いから…早く、手当て…」

全力疾走するなんて何年ぶりだ?いや、誰かの為にこんなに走ったのなんて生まれて初めてだ。

おまえの手首を思いっきり掴み目の前のドアをガラッと勢いよく開けた。
音に反応した保健医がこちらに駆け寄り、事情を説明しておまえを受け渡す。
緊張の糸が解れて一気に疲労感が出たオレは近くにあった椅子にドカッと腰をかけた。



幸いお互いの怪我は大したことがなく両膝の傷口はすぐに塞がり、跡は残らないらしい。
俺の怪我もピアノに支障が出ないと聞いておまえはホッとした顔をしていた。




「設楽先輩…」
「…なんだ」

保健医の診察後、設楽家の迎えが校門前に待機していた。車で送り届ける予定だったがおまえが頑なに遠慮をするから仕方なく今日は先に帰らせ、怪我をしたこいつを歩いて送り届けることにした。

またおまえが怪我したりしたら心配で校門を出てすぐに手を繋ぐ。
俺はいつからこんなに心配性になったのか。きっとおまえに出会ってからに違いない。

「さっきはありがとうございました。わたし嬉しかったです」
「…別に、身体が勝手に動いただけだ」

明日になったら俺の行動が学校中に晒されるのだろうか。そう考えただけで登校するのが憂鬱になってくる。
おまえといると何もかも初めてで、自分の行動や発言にいつも驚かされる。
ハァとため息をつき、隣にいるおまえを見るとニヤニヤとこちらを見上げていた。何か嫌な予感がして少し睨みつけた。

「な、なんだよ」
「設楽先輩、凄くカッコよかったですよ」
「っ…お前、少し黙ってろ…!!」

真っ赤になったオレを見て悪戯をした子供の様にクスクスと無邪気に笑う。
…こいつは人の気も知らないで…!俺だっておまえにやられっぱなしじゃカッコつかない。…俺をからかった仕返しだ!

「でもお互い軽い怪我でよかったですね」
「…まぁ、傷が残ったら俺が責任とってたけどな」
「へ…?それって……」
「バーカ。行くぞ」
「し、設楽先輩!それってどういう意味ですか!?」

仕返しのつもりで言ったのに、もうっ!なんて言いながら顔を真っ赤にしたおまえが可愛くて、やっぱり俺は一生おまえに敵わないと思った。







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主人公の為に動くアクティブな設楽先輩って萌えますよね!

しかし設楽先輩のツンデレって難しい…(-Å-)



(2010/9/27)

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