朝起きていつもの様に洗面所で自分の顔を鏡で確認してはぁぁと大きなため息をつく。

「やっぱり決まんねぇ…」

前髪をセットするのが俺の日課なのに…。



事件は昨日の夜起きた。前髪が長くなったから自分の部屋で少しだけ切ろうとハサミを持った。まさに前髪を切ろうとしたその瞬間、徹平が勢いよくバンっとドアを開け、同時にジョキンっと大きな音をたてたハサミはオレの前髪を容赦なく切り落とした。

…その後は徹平と大喧嘩してうるさいっなんて母ちゃんに怒られて散々だった。



昨日の事件を思い出しながらもう一度、鏡を覗き込む。短くなった前髪からおでこが半分顔を出していて何度髪をセットしてもやっぱり決まらない。思い通りにならない髪をグシャグシャっと乱し洗面所を後にした。
部屋に戻り制服に着替え、リビングで軽く朝食を済ませる。本当は学校に行きたくないけれど母ちゃんにまた怒られるから仕方なく家を出た。足取りは重くて気分は最悪だ。

大袈裟かもしれないけどオレの前髪はもう戻ってこない。数日経てば元通りになるけどオレには一大事で、この世の終わりとさえ思えた。

そんなことを考えながら下を向きトボトボと歩いていると後ろから肩をポンっと叩かれた。

「ニーナおはよう!」

心臓をドキリと鳴らし振り返ると、会いたいけど今は会いたくないオレの大好きな女の子がいた。

あああ、なんでこんな時に限って会っちゃうんだよ。俺がいつもかっこよく決めてる時には絶対会わないのに。1週間会わない時だってあるのにっ。やっぱり休めばよかった!

ニコニコしてるあんたはやっぱり今日も可愛いからオレのカッコ悪い姿を一番見られたくなかった。
チクショー、神様怨んでやる!!

「おっ…おはよ…」

あんたに見られたくなくて必死に右手で前髪を隠して挨拶をしたけど、やっぱりあんたの視線はそこに注目。

「ニーナ…どうしたの?」
「…な、なにが」
「何か変だよ」
「べっ別に変じゃないよ」
「前髪、何かあるの…?」

……結局バレてるし。隠した意味ねぇ!やっぱり前髪を隠してる時点でおかしいよな。
いつものオレだったら調子のいいこと言ってごまかすのに今日は頭が全然働かない。足元もフラフラしてきて立ってるのがやっとだった。

ジーッと眉間に皺を寄せてオレの右手を見つめてるあんたにドキドキした。不謹慎だけど困惑した顔もマジ可愛い。これ以上険悪なムードになりたくないから仕方なく隠していた右手を下ろした。

「…前髪切ったの?」
「うん…。自分で切ったら失敗した」

きょとんとオレを見ているあんたを直視出来なくて自分の足元ばかり見ていた。きっとオレの顔は茹でダコの様に真っ赤になっててクラスの奴が見てたらいい笑い者だ。

「へっ変だよね。…この前髪」
「変じゃないよ?」
「…いいよ、気を使わなくて…」

ああもうオレマジでカッコワリィ…。
好きな子に気を使わせるなんて最低じゃん。ヤバい、なんか泣きたくなってきた。

「ニーナ」

俯いたオレにあんたは優しく名前を呼んで気にしている前髪をそっと撫でてくれた。

「昨日までのニーナもカッコよかったけど、わたしは今のニーナも好きだよ」

……へ?
…今なんて言いましたこの子。さりげなくすんげーこと言いましたよね?
あんたが言った言葉をひとつひとつ頭の中で思い出しながら意味を読み取っていく。

ようやく言葉の意味を理解して目の前にいるあんたを見ると少し照れ臭そうに微笑んでくれた。
その微笑みが本当に可愛くて綺麗でここが公共の場じゃなかったらすぐに抱きしめていただろう。

「前髪短いのも似合うね」
「…あんがと」
「ふふっどう致しまして」

クスクスと笑うあんたを見てさっきまで憂鬱だったモヤモヤした気持ちが晴れてきて、オレもつられて笑顔になっていた。ああ、本当オレって単純な奴。

「あのさ…」
「あっもうこんな時間。遅刻しちゃうから早く行こう!」
「…うん。行こっか」


あんたの笑顔が好きだよって言いたかったけど、ヘタレのオレは言葉に出来なかった。

だからこの短い前髪が伸びて自信がついたらオレの気持ちを聞いてくれる?







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嬉し恥ずかし初小説(¨;)

ニーナは髪型にうるさそうなので(^p^)きっと寝癖も許せない人だと思う。



(2010/9/18)

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