「玉緒さんは優しいですね」

大学に進学してから初めてのクリスマスイブ。僕が所属しているボランティアサークルは基本的に依頼があれば無償で仕事を引き受けるその名の通りボランティアを行うサークルだ。今日は病院で入院している子供達へクリスマスプレゼントを配るという依頼だった。
一つ下の後輩の彼女は大学生ではないけれどこのボランティアに賛同をしてくれて、サンタクロースの衣装に身を包み僕らと一緒に活動をしてくれた。

今は子供達へクリスマスプレゼントを全て配り終わり病室の隅で休憩していると彼女が隣でぼそりと呟いた。
僕が優しいだって…?何かの聞き間違えではないかともう一度彼女に聞き直す。

「僕が、優しい…?」

「はいっ。人の為に活動している玉緒さんは優しい人です。子供達の笑顔が何よりの証拠になってます」

やっぱり聞き間違えではなかった。
僕を優しいという彼女の笑顔は本当に眩しいくらいかわいらしくてやっぱりここに呼んで正解だった。

この日の学園行事がクリスマスパーティーだということは嫌でも知っていた。一年前まで僕は主催していた側だから。
君は普段から気配りも出来てかわいらしいのにドレスなんて着たらさらに磨きがかかるだろう。そこにはきっと、君を好いた男達が集まって持て囃されるに違いない。
僕は君が好きだからそんな場所に君を送り出すなんて僕には耐えられなかった。

そんな時、サークルに今日の件でボランティアの話がきていて、君の携帯へ電話を掛けた。

…そう、僕はこれを利用しようと思い付いた。

君に会いたくて。
その口実でここに来たなんて言えるわけがない。
僕は子供達の笑顔すら利用した。
善意の中に悪意があるなんて彼女が知ったらどう思うのかな。

「…僕は、優しくなんてないよ」

「そんなことないですよ!私は優しい玉緒さんが好きです」

彼女は僕と出会った時から疑うという言葉を知らないくらい純粋で素直な性格だ。きっと温かい家庭で両親にたっぷりと愛情を注がれて育ったに違いない。
自分の気持ちを押し殺して生活している僕とは正反対だ。
羨ましい半面、疎ましいと思ってしまう。そこが彼女の最大の魅力なのだけれど。

「ははっ、…君にはそう見えるんだね」

「…玉緒さん?」

僕の奥深くにあるドロドロとした感情が一気に溢れ出す。とにかく彼女に触れたくて、僕の手で、唇で、全身で彼女に解らせてあげなくてはいけない。

本当の僕は、優しくなんてないのだから。

彼女の細い腕をぐいっと強引に掴み、子供達がいる病室を抜け出し人気がない廊下までやってきた。
辺りを見回し人がいないことを確認をする。大丈夫、ここなら誰もこないだろう。
不安げに僕を見つめる彼女を壁側へ追いやると身動きがとれないように両手を壁につく。
もうこれで逃げられない。

「…僕は君から見たら優しい人なのかな」

「や…優しい人、です」

「…そう。…じゃあ今ここで君にキスがしたい、なんて思ってる僕も優しいのかな?」

「たっ…玉緒さ…」

「ここは病院だから静かに。…キス、してもいい?」

顔を真っ赤に染め上げて彼女はコクんと静かに頷いた。その恥ずかしそうにしている姿が僕を煽り、君に触れたいと感情が更に強くなる。

君の柔らかい唇に優しく触れると、ここが公共の場で病院ということを忘れてしまいそうだ。その余韻に浸りながら少しまぶたを開くと長い睫毛が目の前に見えた。
彼女とのキスは初めてではないのに僕の心臓はいつもバクバクと音をたて、キスをする度に甘さを増す。まるで、甘いあまい麻薬のようだ。止めることも離すことも出来ずただただその唇を味わう。

時折、君が漏らす声がもっと聞きたくてわざと呼吸が出来ないように唇を塞ぐ。僕の服をぎゅうっと掴み、それを合図に名残惜しげに唇を離すと彼女はハァハァと荒い呼吸をして酸素を取り入れている。
ふらふらと足元が不安定な君を支えるとそのまま僕にもたれ掛かった。

「僕は優しくなんてないよ。…君に会う口実を作る為に今日の活動を利用したんだ。…最低だろ?」

重たい空気のまま病院の廊下に沈黙が続く。先程まで全身に広がっていた熱がひんやりと冷めていくのが伝わってきた。
君は純粋だから、どす黒い独占欲でまみれた僕をきっと軽蔑しているに違いない。僕の胸に顔を埋める彼女の表情は確認出来なくてもどかしかった。

すると、僕の腰に優しく腕を回されそれまで黙り続けていた彼女が重い口を開いた。

「……玉緒さんは、優しい人です」

「だから、僕は…」

「言いにくい気持ちをわたしに教えてくれました。やっぱり優しい人です。それに…」

顔を埋めていた彼女がゆっくりと、顔を上げる。
お互いの瞳が交じり合うとニッコリと優しく微笑んでくれた。
ああやっぱり彼女は笑顔が一番だ。

「それに、わたしも玉緒さんに会いたくて…きっかけが欲しくて利用しました。ずっと、玉緒さんとこうしたかったです…」

そう言って彼女は耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにまた僕の胸に顔を埋めた。

僕は君と出会ってから寝ても覚めても君のことばかりだ。君が傍にいないと不安にもなり、他の男と一緒にいるだけでおかしくなりそうだ。君のことが好きで好きでどうしようもない。

彼女は、僕のこの醜い独占欲を知っても許してくれる。もし、これが事実ならばこんなに嬉しいことはない。

だけど、彼女だって馬鹿じゃない。僕に合わせて嘘をついているのかもしれない。素直に気持ちを受け止められない僕はやっぱり人として何か欠けている。
ちっとも優しい人間なんかじゃない。


「…君は優しい子だね」

例えそれが優しい嘘でも。
それでも、君が包み込む腕は確かに優しくて温かかった。










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玉緒さんお誕生日おめでとうっ!そして何ら関係もないクリスマスネタをありがとうw

急遽、黒サンタからグレーサンタにさせて頂きました(^O^)

季節外れのメリークリスマス!笑

(2011.1.19)

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