※みよちゃん目線



降水確率0%

今朝見たテレビの天気予報は雨が降るなんて一言も言っていなかった。だから安心して傘を持たずに学校に登校したのに、放課後になると外は雨。

天気予報なんてもう信じない。今度から一週間分の天気を自分で占う。
そんなことを考えながら下駄箱の前で立ち尽くし雨を眺めていた。
シトシトと降り続く雨は強くはないけれど、一向に止む気配はない。

今日はそのままアルバイト先に向かう予定だったのに。部活中のカレンに傘を借りようかな?でもそうするとカレンが濡れてしまう。それにバンビは……。

「あっみよちゃんだ」

聞き覚えのあるその声に振り返るとそこには桜井琉夏がいた。
相変わらず彼の頭はピカピカと輝いてわたしとは正反対の眩しいくらいのオーラを身にまとい思わず瞳を細める。

「…バンビは美術部の片付けで遅くなるから」

「うん、知ってるよ」

じゃあ何のよう?なんて口から出てきそうな言葉をすぐに飲み込んだ。
だって桜井琉夏がわたしに話し掛けるなんて大抵バンビ絡みの事ことだから。
冷ややかに彼を睨みつけると人懐っこい笑顔で答えてくれた。

…みんなこの笑顔に騙されているのね。

「あれ、傘…忘れたの?」

「…忘れてない」

「みよちゃんが忘れるなんてちょっと意外だね」

「…ちゃんて呼ばないで」

早く、アルバイト先へ行かなくちゃいけないのに桜井琉夏は何度突き放す言葉を浴びせてもここから離れない。左腕にしている時計をちらりと確認すると時間が刻々と迫っていく。

「ねぇ、よかったらこの傘使っていいよ」

「…いらない」

「だってみよちゃん予定があるんでしょ?さっきから時間気にしてる」

「……!」

わたしの露骨な態度がどうやら彼にはお見通しだったみたいで急に恥ずかしくなり思わず瞳を逸らした。
きっとわたしの顔は今真っ赤だ。

「…あなたはどうするの?」

「俺?俺はさ…ほら。アイツと帰るから」

アイツって…。バンビのこと?
名前は聞かなくてもわかる。桜井琉夏はバンビの話をする時、表情が柔らかくなる。だから私はすぐに後悔した。
彼に少し意地悪な嘘をついてしまっていたから…。


「あ、の…バンビは…もう…」

「…大丈夫だよ。全部知ってるから」

「……え?」

「コウと帰ったんでしょ?さっき窓から見えた。アイツ、コウのこと好きだから嬉しそうだった」

全部知っていた…?
わたしが嘘をついたこと。部活が休みでバンビがもうここにはいないこと。

…バンビが桜井虎一が好きなことを。

全部全部、彼は知っていたの?

「ご、ごめんなさ…い」

「なんでみよちゃんが謝るの?」

わたしはバンビが好き。
バンビは桜井虎一が好き。
だからその恋路を誰にも邪魔して欲しくなかった。例えそれが桜井琉夏でも。

だけど、彼は全部知っていた。叶わない恋とわかっていても、それでもバンビが好きなんだ。

なんて、酷いことをしてしまったのだろう。彼の気持ちは痛い程知っていたはずなのに。

こんな時に限って星の導きはなにも答えてくれない。なんて役立たずな力なんだろう。彼を元気づける為に何かを伝えたいのに何も思い浮かばない。

俯いたわたしの目線にすっ、と透明なビニール傘が差し出された。見上げると桜井琉夏はまるでわたしを許すように優しく微笑んだ。

「またね。みよちゃん」

待って、と言いかけた時には差し出されたそれを手渡されていて。ヒラヒラと手を振りながら雨の中を走り去る彼をぼんやりと見送った。

雨の日は嫌い。

灰色の雨空を見上げたけれどやっぱり星の導きは何も答えてくれなかった。









----------------

ルカバン+みよちゃんを目指したはずなのに、コウバン←ルカ+みよちゃんになりました。

ふっ複雑…(¨;)


(2011.1.12)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -