どうやらあいつは最近アルバイトを始めたらしい。

詳しくは聞いてないが週二日の仕事らしく帰りも遅くなることが多いみたいだ。
せっかく俺が毎日メールを送っても疲れて寝てしまうみたいで返信が返ってこない。
文句でも言ってやろうとおまえのクラスに辿り着いた。

クラスを見回すとすぐにおまえを見つけられたが、隣には見覚えのあるオールバックに長身の男…あれは虎一…!
なんでおまえが虎一と一緒にいるんだ。

二人は楽しそうに笑いながら話していて、俺の入る隙間なんてないくらいにいい雰囲気だった。
二人を見ているだけなのに、なんだこのモヤモヤする様な気持ちは。


しばらく二人を眺めていると会話が終わったのかおまえが虎一に手を振る。一瞬こちらに来るかと思い焦ったが俺とは反対側の教室のドアから虎一が出て行った。
視線をおまえに戻すと俺に気づいたのか、おまえが笑顔で近づいてきた。


「設楽先輩!昨日メール返信出来なくてごめんなさい」
「ああ、メールな…」

そうだ。オレはメールのことでおまえに文句を言いにきたのにすっかり忘れていた。でも今はメールなんかよりおまえと虎一のことが気になって仕方がない。

「おまえ、何で虎一と…」
「あれ?言ってませんでしたっけ。わたしとコウちゃん幼なじみなんですよ」

幼なじみ…!?
ということは昔はばたき市に住んでいたのか。俺はそんな話一切聞いてない。なんで教えてくれなかったんだ!
…待て。それよりも今こいつ虎一を変な呼び方しなかったか?

「オイ、今なんていった…」
「え?幼なじみのことですか」
「違う!その前だ!」
「…コウちゃんのこと?」

やっぱり…!
コウちゃんってなんだ。あんな猛獣みたいな虎一に「ちゃん」なんて似合うわけないだろ。
オレが何に怒っているのかわからずにおまえは頭に?を浮かべていた。

「…虎一と何話してたんだ」
「えっと…アルバイトのシフトの件で」
「……まさか、同じアルバイト先なのか?」
「はい。先週からガソリンスタンドで働いています」

頭をトンカチで殴られた様にグラリと目眩がした。
ガソリンスタンド?もっとおまえに似合うバイトはいっぱいあるだろ。
例えば花屋とかケーキ屋とか…。いや、いっそのことうちのメイドをやらせればいい。そしたらおまえと過ごせる時間も増えるじゃないか。

「おまえ、今すぐアルバイトを辞めろ」
「な、何いってるんですか!?」
「辞めろといってるんだ。アルバイト代は俺がなんとかする」
「そんな無茶苦茶な…」

呆れた様に俺を見る目が更にイライラを増幅させた。
確かに自分でも無茶苦茶なことを言っているのはわかっている。わかっているけど、なんでよりによって虎一なんだ。あいつはだめだ。さっきからおまえと虎一が楽しそうにしていたのが頭の奥にこびりついて離れない。

「設楽先輩…コウちゃんが苦手だからって悪口はダメですよ」
「馬鹿!そうじゃない。そうじゃなくて…」
「馬鹿って…ヒドイ」

気がつくと俺を見つめていた瞳に涙が溜まっていた。
泣きたいのはこっちだ。
あんなに楽しそうに優しく笑う虎一を見たのは初めてで、おまえは全く気づいていないが気があることにすぐ気づいた。
俺と同じ顔をしていたから。
そんな男と一緒にアルバイトしてるなんて許せるわけない。どうして俺の気持ちが伝わらないんだ。

それに…

「俺のことはまだ設楽先輩って呼ぶくせに…」
「え…?」

我慢が出来ずいつの間にか自分の気持ちを言葉に出してしまい、思わず口元を手で抑える。
これでは駄々をこねてる子供みたいじゃないか。

「…もしかして、設楽先輩も名前で呼ばれたいんですか…?」
「……」
「ヤキモチですか…?」
「……おまえは少し黙れ」

さっきまで泣き出しそうだったおまえが可愛いですねとクスクス笑うから、恥ずかしくてまともに顔を見れない。

「わかりました。…セイちゃんはどうですか?」
「…虎一と同じは嫌だ」
「じゃあ聖司さん?」
「……まぁ、悪くはない」「ふふっ。聖司さん宜しくお願いします」

おまえに名前を呼ばれただけなのに、不覚にもドキンとときめいてしまう。
…この先こんな状態で俺の心臓は持つのだろうか。

「でもアルバイトは辞めませんよ」
「…!おまえ」
「そのかわり…」

ぐいっと勢いよく左腕を引っ張られ、倒れそうになるのをぐっと堪えるとおまえの顔が近づいてきて内緒話をするように両手で耳を覆われる。

「…終わった後は聖司さんが迎えに来て下さいね」

もちろん断る理由なんて俺にはないから、当たり前だろ、と俺もおまえの耳元で優しく答えた。









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今回はツンデレな設楽先輩を目指しました。

っていうかバンビに聖司さんって呼ばせたかっただけです…(¨)


(2010.10.29)

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